
FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.手付金とは?
契約の手付金は単なる前払いではなく、契約成立の証と解除権を併せ持つ特別な金銭です。
不動産売買や高額取引で一般的に用いられ、民法では「解約手付」が原則とされています。
買主は手付金を放棄することで、売主は倍額を返還することで契約解除が可能ですが、相手が履行に着手した後や特約の期限後は解除できません。消費者保護の観点から宅建業法では上限20%の規制もあり、契約時に条件をしっかり確認することが重要です。
この記事は、
- 不動産購入を検討している人
- 手付解除のタイミングを見極めたい売買契約者
に役立つ内容です。
手付金とは?
手付金(てつけきん)とは、売買契約や請負契約など有償の契約を結ぶ際に、契約当事者の一方(主に買主)が相手方に対して支払う金銭のことです。
たとえば、不動産の売買契約で家を購入する場合、契約締結時に買主が売主へ代金の一部として手付金を支払う慣行があります。
この手付金は契約成立の証拠であり、買主の本気度(意思の堅さ)を示すものです。
通常、手付金は契約代金の一部に充当され、最終的に残代金と相殺されます。契約が順調に履行されれば、手付金は購入代金の一部として扱われるため後で買主に戻ってくることはなく、支払った手付金分を差し引いた残額を引渡し時に支払うということです。
手付金を支払う場面は主に高額な取引や契約で見られます。
典型的なのは不動産売買契約ですが、自動車の売買、新築住宅の請負契約(工事請負契約)などでも手付金が用いられることがあります。また賃貸借契約において、不動産の入居申込時に「手付金」や「預り金」という名目で支払うケースもあります。
このように手付金は契約の成立時に支払われる特別な前払い金であり、単なる頭金(内金)とは異なる法律的な意味合いを持ちます。内金が純粋な前払金であるのに対し、手付金は契約解除に関する効力を持つ点が重要です。
手付金の法律上の取り扱い
日本の法律(民法)では、手付金についてのルールが定められています。
民法第557条では「買主が売主に手付を交付したとき」は原則として「解約手付」と扱っています。
これは特別な取り決めがない限り、手付金には契約を解除する権利を留保する効果があるという意味です。
簡単に言えば「いったん契約したけれど、後からやっぱりやめたい」という場合に、手付金を放棄(買主側)または倍額を返還(売主側)することで契約を解除できる性質を持つということです。
このような手付金を解約手付と呼びます。
手付金の種類
手付金には目的に応じて3つの種類があるとされています。
証約手付:契約が成立したこと自体を証明するために授受される手付金です。
交渉段階の延長線上で契約成立を明確にする目的で支払われ、契約の成立を証する役割にとどまります。証約手付の場合、手付金に契約解除の効力は伴わず、単に契約締結の事実を示すものです。
現代では多くの契約が書面で行われますが、契約は本来、口頭でも成立するものです。証約手付は、特に書面による契約がない場合でも、契約の意思を明確化する役割を果たします。
解約手付:上述のとおり、契約を解除するための権利を留保する手付金です。
買主は支払った手付金を放棄することで契約を解除でき、売主は受け取った手付金の倍額を買主に返すことで契約を解除できます。この解約手付が日本の取引では原則・一般的な扱いとされ、特約がなければ手付金=解約手付とみなされます。
違約手付:契約当事者の一方が債務不履行(契約違反)をした場合の違約金(ペナルティ)として没収されることを定めた手付金です。
買主が支払期日までに代金を支払わないなど契約違反があった場合は、買主が支払った手付金は違約金として売主に没収されます。逆に、売主が引渡し期日までに商品を用意しないなどの契約違反があった場合には、買主から受け取った手付金を返還しなければなりません。
例えば、買主が手付金10万円を支払い契約した後に支払い義務を履行しなかった場合、その10万円は違約金として没収されます。逆に売主が契約違反をした場合は、売主は手付金の倍額(この例では20万円)を買主に償還しなければなりません。違約手付はあらかじめ定めた損害賠償額(違約金)の予定と解釈され、手付金自体が違約時の損害賠償額となるものです。
なお、同じ手付金が「解約手付」でありつつ「違約手付」の性質も併せ持つことも可能です。
実務上の手付金事例
実務上、不動産売買契約などでは「この手付金は解約手付とし、かつ違約手付として扱う」旨が契約書に定められていることが多くあります。この場合、契約途中で当事者が任意に手付解除できる一方、万一相手方が履行しなかった場合には手付金が違約金として没収される(または倍返しされる)という両面の効果を持つことになります。
どのような契約に手付金が適用されるかについては、法律上は売買や請負などの有償契約であれば広く認められています。
実際には、不動産売買契約での手付金が代表例ですが、注文住宅の工事請負契約、中古車売買契約などでも手付金が取り決められることがあります。契約の種類によって名称や扱いが異なる場合もありますが、契約締結時に交付される金銭で解除権などの効果をもつものは広く「手付金」として民法の規定が及ぶと考えてよいでしょう。
不動産売買の手付上限
加えて、不動産取引において消費者を保護するための特別法として宅地建物取引業法があります。
この法律では、売主が不動産業者(宅地建物取引業者)で買主が一般消費者である売買契約の場合、手付金の上限額に制限が設けられています。
手付金の額は売買代金の20%を超えてはならないとされています。
過大な手付金を業者が受け取ることを防ぐためで、万一20%を超える額を交付した場合でも、超過分は法律上手付金とはみなされない(無効)とされます。
また、手付金は必ず解約手付とみなされます。つまり業者はどんな契約でも消費者から受け取る手付は契約解除に使える性質を持ちます。買主の手付解除権を不当に制限する特約は無効となります。
たとえば「手付解除は契約後○日以内しかできない」「売主からは解除できるが買主からはできない」といった消費者に不利な取り決めは法的に効力がありません。このような規定により、消費者である買主が不当に高額な手付金を払わされたり、解除権を奪われたりしないよう保護しています。
以上のように、手付金は法律上しっかりと扱いが決められており、特に不動産取引では消費者保護の観点から金額や性質に制限があることを押さえておきましょう。
契約解除と手付金
手付金の最大の特徴は、「手付解除」と呼ばれる契約解除の方法が認められることです。
解約手付として授受された手付金がある場合、当事者は一定の条件の下で一方的に契約を解除できます。
解除のルールは民法557条に規定されており、ポイントをまとめると次のとおりです。
買主からの解除(手付流し):買主は支払った手付金を放棄することで契約を解除できます。
放棄とはつまり「支払った手付金を返してもらわなくてよい(手付金は返還不要)」と諦めることで、解除の意思表示を行います。
一般には買主が「手付金は戻さなくてよいので契約をやめたい」という意思を伝えることで成立します。
売主からの解除(手付倍返し):売主は受け取った手付金の倍額を買主に現実に提供(支払)することで契約を解除できます。
つまり、たとえば100万円の手付金を受領していた場合、200万円を買主に支払う用意をして解除の意思表示をします。俗に「倍返し」と言われるのはこのためです。
上記のようにして手付解除を行うと、その時点で契約は白紙解除となり、双方それ以上契約を履行する義務はなくなります。
買主側から見れば、支払った手付金は戻ってきませんが、それ以上の支払い義務も負いません。
売主側から見れば、手付金の倍額を支払う損失は出ますが契約から解放されます。
手付解除は履行着手まで
ただし、手付解除には制限があります。
民法は「相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない」と定めており、一度相手が契約履行に着手したら手付による一方的解除はできなくなるのです。
最高裁判所の判決によれば、「履行の着手」とは「債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」を意味します
この「履行に着手」とは、平たくいえば契約上の義務の履行を実際に開始することを指します。
例えば、不動産売買契約であれば、売主が買主に物件の引き渡しを開始したり(鍵を渡す、登記手続きを進める等)、買主が売主に代金の支払いの一部を行ったりすることが「履行の着手」に該当します。
では、具体的にどのような行為が「履行に着手」とみなされるのでしょうか。
この点については判例でも判断がわかれる場合があり、ケースバイケースで決まります。
判例上は単なる準備行為では不十分で、契約の本旨に直接関わる履行行為が開始されたと評価できることが必要とされています。
例えば、買主が契約の履行期(決済日)を過ぎてから残代金の準備を整え、再三にわたり売主に履行を催告した場合、これは買主による契約履行の着手があったと判断されました。
一方で、履行期前に買主が物件の測量をしたり資金計画を立てて売主に支払い準備を伝えた程度では、履行期まで時間が大きく残っている場合などは履行の着手とはいえないとされています。
このように、履行に着手したか否かの判断は状況によりますが、「契約の相手方が契約履行を始めているか」がポイントになります。
民法上は「相手方が履行に着手するまでは」手付解除が可能とされていますが、裏を返せば一方が履行に着手していなければ、たとえ自分自身は履行を始めていても手付解除できるという判例もあります。
最高裁の判例では、自ら契約履行に着手していても相手方がまだであれば手付解除権を行使できると示されています。
とはいえ、実務的には自分が履行を始めてしまうと相手もそれに応じて履行を進めることが多く、結果的に手付解除のタイミングを失いやすくなります。
契約を一方的に解除できるこの権利は強力ですが、行使できるタイミングは契約後そう長くはないことに注意が必要です。
さらに、契約実務では手付解除の期限(手付解除期日)を別途定めるケースもあります。
例えば「契約日から◯ヶ月を経過した後は手付解除できない」と契約書に明記されることがあります。
この期日を過ぎると、たとえ相手がまだ履行に着手していなくても契約上手付解除権を放棄する特約となります。手付解除期日を過ぎてから一方的に契約をやめたいと申し出ても、その解除は認められず契約違反(債務不履行による解除)の扱いとなってしまいますので要注意です。
ただし、前述の宅建業法の規制により、売主が業者・買主が消費者の場合には買主の解除権を制限する手付解除期日の特約は無効とされます。消費者保護の観点から、少なくとも売主業者側に履行の着手があるまでは買主は常に手付解除できるよう保障されているわけです。
手付解除の流れ
手付解除を行う際の流れは次のようなことが多いです。
解除のタイミング:解除権を行使するなら早めに行うことです。相手方が履行に着手してしまったり、契約で定めた手付解除期限が過ぎてしまうと、一方的解除はできなくなります。
迷っているうちにタイミングを逃すと、手付金を放棄しても解除できず契約違反になってしまう恐れがあります。
解除の方法:手付解除をする場合、相手に明確に解除の意思表示をすることが必要です。
買主側なら「手付金は放棄しますので契約を解除させてください」と通知し、売主側ならあらかじめ手付の倍額を用意したうえで「倍額を提供しますので契約を解除します」と申し出ます。
法律上は買主が放棄を宣言した時点、売主が倍額提供を申し出た時点で解除は有効となります。実務的には書面で「手付解除通知書」を送ったり、合意書を交わすことも多いです。
解除後の精算:手付解除が有効に行われた場合、原則として手付金(および倍額)以外の損害賠償は請求できません。手付解除は手付金自体が違約時の補償として機能する制度ですので、解除に伴い「もっと損害を被ったから追加で支払え」という要求は認められません。
したがって、手付解除さえ成立すれば当事者間の金銭的清算は手付金の授受で完結します。
ただし、手付解除ではなく相手方の契約違反による解除(債務不履行解除)となった場合はこの限りではなく、別途損害賠償請求が問題となります。
手付金をめぐるトラブル事例
手付金に関するトラブルは、不動産売買などの現場で実際に起きており、いくつかの裁判で争点となっています。
ここでは過去の判例から代表的な事例を紹介し、注意すべきポイントを解説します。
ケース1:手付解除の期限経過後に解除を申し出た事例
ある不動産売買契約では、「契約締結後2か月を経過した場合には手付解除ができない」という特約が定められていました。買主は投資目的で物件を購入しましたが、契約から3か月経過した時点で「借り手(賃借人)探しが難航しているので、この契約を手付放棄で解除したい」と申し出ました。
しかし、このとき契約書で定めた手付解除可能な期限(2か月)がすでに過ぎており、さらに売主は契約直後に買主へ物件の鍵を渡していました。鍵の引渡しは売主による履行の一部開始(履行着手)とみなされる行為です。
このケースでは、期限経過と履行着手の双方が認められたため、買主からの一方的な手付解除は無効と判断されました。結果として買主の申し出は契約違反(債務不履行)となり、手付金は違約手付として没収される可能性があります。
この判例から学べるのは、契約書に手付解除の期限が定められている場合、その期限を過ぎると一方的解除はできなくなること、そして物件の鍵の引渡しなど実質的な履行行為が行われている場合も解除権は失われるという点です。
契約時には手付解除期日の有無を確認し、解除するなら期日内に決断する必要があります。
なお、宅建業法の適用がある不動産売買契約では、手付解除の期限が無効になる点はありますが、履行着手後は手付解除できないので、鍵の引き渡しまでしていると、同様の結論になるでしょう。
ケース2:何が「履行の着手」に当たるか争いになった事例
手付解除権を巡っては、「相手方が契約の履行に着手したかどうか」がしばしば争点となります。
ある判例では、買主が代金支払いの準備を整えた上で履行期を過ぎても売主にたびたび履行を促していた状況について、裁判所は「買主による履行の着手があった」と判断しました。
つまり、売主から見ると相手方(買主)は契約履行を始めてしまっているため、もはや売主からの手付解除は認められないという結論です。この場合、売主が一方的に契約をやめたいなら手付解除ではなく契約違反を承知で解除するしかなく、買主から損害賠償請求を受けるリスクを負うことになります。
一方で別のケースでは、契約の履行期まで相当の時間がある中で、買主が物件調査や資金準備を進めて「履行の用意がある」と伝えた程度では履行着手とは言えないとされました。
このように判例上も状況によって判断が分かれていますが、共通しているのは「契約の本来の目的に向けた具体的履行行為」があったかどうかという点です。
学べるポイントは、当事者としては自分が手付解除をしたいなら相手に履行を始めさせないよう注意すること、逆に相手に解除させたくなければ早めに履行に着手して既成事実を作るという駆け引きも起こりうるということです。
ただし駆け引きが行き過ぎるとトラブルに発展しますので、健全な契約関係では誠実に協議することが望ましいでしょう。
以上の判例から分かるように、手付金を巡るトラブルは主に「いつまで解除できるか」「何をもって解除できなくなるか」に集中しています。
契約書の特約や当事者の行動次第で結果が大きく異なるため、契約時・解除検討時には十分な注意と専門家のアドバイスが重要です。
手付金をめぐるトラブルと対策
手付金に関するトラブルは、主に契約解除の場面や契約不履行の場面で生じます。
一般消費者として以下の点に注意し、適切に対策を講じることが大切です。
契約内容の事前確認:契約書を締結する際には、手付金に関する条項を必ず確認しましょう。
手付金の額、性質(解約手付である旨)、手付解除の期限や条件が書かれているかをチェックしてください。
特に不動産業者との契約では宅建業法により買主に不利な手付金条項は無効とされますが、それでも契約書に記載がある場合があります。自分に不利な特約がないか、しっかり目を通すことが重要です。また、「手付金」ではなく「内金」や「申込金」などと記載されている場合、そのお金に解除権が伴うかどうか明確でないことがあります。
手付金の金額と保全:手付金の額が適切か確認しましょう。不動産売買の場合、手付金は慣例的に物件価格の5~10%程度が多いですが、法令上20%が上限です。もし非常に高額な手付金を要求されたら注意が必要です。
また、新築物件の購入などで高額の手付金や中間金を支払う場合、手付金等の保全措置(銀行の保証や保険)が講じられているか確認しましょう。
売主業者が倒産してしまった場合でも、保全措置があれば手付金は返還されます。
保全措置が無いのに多額の金銭を先払いするのはリスクが高いため、必要に応じて契約を見直してもらう交渉も必要でしょう。
契約解除を検討する場合:事情が変わって契約をやめたいと思ったら、まず契約上手付解除が可能か(期限内か、相手は履行着手前か)を確認します。
可能であれば速やかに手付解除の意思表示を行いましょう。期限を過ぎていたり相手がすでに履行を始めている場合は、一方的解除はできません。
その場合は相手方と協議して合意解除(双方合意の上で契約解消)を図るか、違約を覚悟で契約解除することになります。
違約解除(債務不履行)となれば手付金は違約金として没収され、さらに損害額が手付金を超える場合は不足分の賠償請求を受けるリスクもあります。自分の都合で契約解除したい場合、手付解除できる段階か否かで経済的負担が大きく変わるため、この判断は慎重に行いましょう。
相手方の違約への対応:逆に、こちらは契約を履行する意思があるのに相手方が契約を履行しない(違約している)場合、手付金の扱いにも注意が必要です。相手が買主で支払いを履行しないなら、手付金を受け取っている売主は契約を解除してその手付金を違約金として没収することが考えられます。
相手が売主で引渡しをしない場合、買主は契約解除して手付金の倍額の支払いを請求できるケースがあります(違約手付として)。
これらは、手付金に違約手付の性質が含まれるかという問題になってきます。
いずれにせよ契約違反が発生したらまず契約書の違約事項の条項を確認し、手付金による精算で足りない損害があれば追加で賠償請求できるか検討します。話し合いで解決しない場合は法的手続きを視野に入れる必要があるでしょう。
手付金についての法律相談(面談)は以下のボタンよりお申し込みできます。