
FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.債務不履行とは?
契約違反として知られる債務不履行は、企業間取引等で頻繁に発生するリスクです。
履行遅滞、履行不能、不完全履行の3種類があり、それぞれ法的責任を伴います。
本記事では債務不履行の基本概念から、企業が直面しやすい事例、未然防止のポイント、そして発生時の対応策まで解説します。
この記事は、
- 相手が契約内容を守らなくて困っている人
- 取引先との契約リスクを管理したい事業部門責任者
に役立つ内容です。
債務不履行とは
債務不履行とは、契約によって約束した義務を履行しないことを指します(民法415条)。平たく言えば、契約違反であり、契約上の責任を果たせない状態です。
債務不履行が成立するためには、前提として「契約関係」が必要です。契約によって約束した義務が「債務」となるため、何の契約関係もない相手に対して債務不履行責任を問うことはできません
債務不履行には主に次の3つの種類があります。
履行遅滞(りこうちたい): 契約で定めた期限までに義務を履行しないことです。
期限を過ぎても代金を支払わない場合や、納品日までに商品やサービスを提供しない場合がこれにあたります。例えば、「○月○日までに支払う」と約束したのにその日を過ぎても支払わなければ、履行遅滞となります。
履行期限の定め方には、確定期限、不確定期限、期限の定めなしの3パターンがあり、それぞれ履行遅滞に陥る時期が異なります。確定期限のある債務はその期限が到来したときから、不確定期限のある債務は期限到来後に債権者から履行請求を受けたとき、または債務者が期限到来を知ったときから、期限の定めのない債務は債権者から履行請求を受けたときから履行遅滞となります。
履行不能(りこうふのう): 債務の履行が不可能になってしまった状態です。
契約後に義務を果たせない事情が発生した場合(納品予定の製品が事故で破損して修復不能になった等)が該当します。たとえば、売る予定だった商品が火災で消失したために納品できなくなった場合、その時点で履行不能となります。
不完全履行(ふかんぜんりこう): 履行自体は行われたものの、その内容が契約の本旨に沿っていない状態を指します。
簡単に言えば「約束どおりの品質や内容で履行されていない」ケースです。
例えば、契約書の仕様に合わない不良品を納品した場合や、成果物が契約で期待された水準に達していない場合が不完全履行となります。
以上のように、債務不履行には期限に遅れるケース、実行自体が不可能になるケース、そして実行したけれど不備があるケースの3種類があり、契約違反の態様によって分類されます。
債務不履行の法的責任
債務不履行が生じた場合、債務を履行しなかった側(債務者)は法的責任を負う可能性があります。主な法的責任として、損害賠償責任と契約解除の問題が生じ、場合によってはその他の救済手段も検討されます。
債務不履行と損害賠償請求
相手の債務不履行によって損害を被った場合、債権者(被害を受けた側)は債務者に対して損害賠償を請求できます(民法415条)。
ただし、損害賠償が認められるためには、その債務不履行が債務者の責めに帰すべき事由によることが必要です。つまり、債務者に故意・過失など責任とされる原因がない場合(天災など不可抗力で履行不能になった場合など)は、原則として損害賠償責任を追及できません。
また、賠償の範囲は法律上通常生ずべき損害(一般的な損害)のみに限られ、特別の事情による損害は当初からその事情を予見できた場合にのみ請求可能です。
例えば、納品遅れで取引先に通常生じる損害(代替調達費用等)は賠償対象ですが、特別な事情による二次的損害は相手がその事情を予見し得た場合でなければ賠償請求できません。
くわえて、債務不履行と損害発生の間に因果関係が必要です。債務不履行があっても損害が発生していない場合には、契約解除はできても損害賠償請求はできません。因果関係は「相当因果関係」に限定され、債務不履行によって発生したことが「相当」と言える範囲の損害に限って賠償請求が可能です。
なお、損害賠償請求権には消滅時効(一定期間で請求権が消える)があるため、迅速に対応することも重要です。
債務不履行と契約解除
債務不履行が発生したとき、一定の条件下で契約を解除(キャンセル)することも認められます。
一般的には、債務者が履行を遅滞または不完全履行している場合、債権者は債務者に対し相当の期間を定めて履行を催告し(履行するよう期限を区切って求め)、それでも履行されないときは契約を解除することができます。
ただし、債務不履行の程度がごく軽微で契約や取引上許容される場合には解除が認められないこともあります(民法541条ただし書)。
一方、履行不能のように最初から履行が不可能な場合や、債務者が明確に履行を拒絶した場合には、催告なしで直ちに契約解除ができるとされています(民法542条)。
契約を解除すると、その契約上の将来の履行義務は消滅し、原状回復(既に受け取った代金や物の返還等)を行う必要があります。
解除権を行使する際は、内容証明郵便などで相手方に解除の意思表示を正式に伝えることが一般的です。言った・言わないの争いになることが多いので、書面など記録に残る形にしておきましょう。
その他の法的救済手段
債務不履行に対しては、損害賠償や契約解除以外にもいくつかの法的手段が用意されています。
たとえば、契約の相手方に対して履行の追完請求(遅れてでも契約通り履行せよと求める)や、売買契約の場合の代金減額請求(不完全履行時に代金の一部を減額してもらう)なども法律上認められることがあります。
これらは債務不履行が是正可能な場合に、契約関係を維持しつつ被害の公正な補填を図る手段です。
また、契約によっては違約金条項(一定額のペナルティを支払う約定)や保証人の取り決めがある場合もあり、違約金の請求や保証人への請求といった形で救済を図ることも可能です。
さらに、裁判で勝訴判決を得た後に履行しない相手に対しては、裁判所を通じた強制執行手続きを申立て、相手の財産から強制的に債権回収を行うことも最終手段として考えられます。
企業や事業者が直面する債務不履行事例
企業間取引では、債務不履行に起因するトラブルがしばしば発生します。以下に、事業者が直面しやすい典型的な債務不履行の事例を紹介します。
取引先の支払い遅延・未払い: 商品を納入したのに取引先が代金を期日までに支払わない、いわゆる売掛金の支払い遅延や未払いのケースです。
例えば、納品後30日以内払いの契約にもかかわらず、取引先が期限を過ぎても代金を支払わない場合は履行遅滞にあたります。中小企業では取引先からの入金遅延が資金繰りに直結するため、特に注意が必要です。
納品遅延や品質不良によるトラブル: 発注した商品や成果物の納品が遅れるケースや、納品されたものが品質不良で契約の内容に適合しないケースです。
前者は、例えば、業務委託契約で完成品の提出が契約期限に間に合わないような場合で、後者は納品物に欠陥があり使用できない、または契約仕様を満たしていない場合です。納品遅延は履行遅滞、不良品の納入は不完全履行として問題となり、納入先からクレームや損害賠償請求を受ける恐れがあります。
契約内容の履行違反: 金銭や物の受け渡し以外でも、契約で約束した行為を守らないケースが発生します。
例えば、契約違反行為として、フランチャイズ契約で定められた営業エリア外で商売を行う、秘密保持契約で禁止されている情報漏えいを行う、業務提携契約で約束した業務を履行しない、といった事例です。これらは契約条項に反する行為であり、債務不履行として損害賠償請求や契約解除の対象となり得ます。企業間取引では他にも、納入数量の不足、検収基準を満たさない納品、サービス提供の停止など様々な形の履行違反が起こりえます。
以上のような事例に直面した場合、被害を受ける企業側としては契約書ややり取りの記録を確認し、速やかに適切な対応を取ることが重要です。
債務不履行を防ぐためのポイント
債務不履行は発生してから対応するよりも、未然に防止することが理想です。企業や事業者として契約トラブルを防ぐため、以下のポイントに留意しましょう。
契約書の工夫と明確化
契約を締結する際には、契約内容を十分に確認し、曖昧さを残さないことが大切です。
契約書には双方の義務や条件を具体的に明記し、「どのような状態を契約違反(債務不履行)とみなすか」「違反時に契約解除できる条件」「損害賠償請求できる範囲や違約金の額」などを盛り込んでおくと安心です。
特に違約条項(ペナルティ)や遅延損害金の率などを定めておけば、万一違反が起きた際の対応策が明確になります。
特に建築工事やIT開発などの分野では、「居間内装工事一式」「システム開発一式」といった曖昧な記載ではなく、具体的な仕様や条件を明記することが重要です。また、契約締結後に仕様変更等が生じた場合は、必ず書面で合意内容を残しておくことが紛争予防につながります。これらの契約では、そもそも契約で決められた義務が何なのかが争われることが多いのです。
また、自社に過度に不利な条項やリスクの大きい条項が含まれていないかも事前にチェックし、必要に応じて交渉で修正しましょう。
取引相手の信用調査とリスク管理
契約前に相手方の信頼性を見極めることも債務不履行防止の重要なポイントです。
取引先の経営状況や支払い遅延の履歴などを可能な範囲で調査し、信用リスクが高すぎないか確認しましょう。必要に応じて与信限度(取引上許容できる債権額)を設定したり、前払い・担保提供・保証人設定などの条件を付けることも検討できます。相手が多重債務を負っていたり資金繰りが悪化しているような場合には、債務不履行となるリスクが高まるため注意が必要です。
日頃から取引先の信用状況をモニタリングし、早めに兆候を察知することがリスク管理につながります。
円滑なコミュニケーション
契約内容や履行スケジュールについて、取引先と事前に十分なすり合わせ(合意確認)を行うこともトラブル防止に有効です。
双方の認識に齟齬がないように打ち合わせを重ね、疑義があれば契約締結前に解消しましょう。また、契約履行中も密に連絡を取り、問題が生じそうなときは早めに協議する姿勢が大切です。
例えば、納期に遅れそうな場合は事前に相談して納期延長や部分納品の合意を取る、支払いが難しい場合は支払いスケジュールの見直しを提案するなど、事前のコミュニケーションと交渉によって深刻な債務不履行に至るのを防げる場合があります。
日頃から良好な関係を築いておくことで、万一トラブルが起きても柔軟に対応策を協議しやすくなるでしょう。
債務不履行に直面した場合の対応策
万が一、取引先など相手方の債務不履行が発生してしまった場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。
以下に、債務不履行に直面した際に企業が取るべき基本的な対応策を段階的に説明します。
初動対応 – 状況確認と通知
まずは事実関係の確認が最優先です。何がどの程度契約と異なっているのか、契約書の該当条項や合意事項を再確認しましょう。
例えば、支払い遅延なら、支払期限や金額を契約書でチェックし、相手の支払い状況を把握します。納品遅延や不良品なら、納期や仕様の定義と実際の納品物の状態を確認します。
その上で、相手方に対して速やかに通知や催促を行います。口頭やメールでの催促から始め、誠意ある話し合いで解決できるか探ります。軽微な行き違いであれば、この段階で是正されることも多いです。
重要なのは記録を残すことで、電話よりも後に証拠が残るメールや書面でのやり取りが望ましいでしょう。
履行を促す際には、「○日以内に履行がなければ契約違反として次の対応を取らざるを得ない」旨を伝えるなど、一定の期限を区切って明確に要求します。
もし、口頭や通常のメール連絡で埒が明かない場合、内容証明郵便による催告書の送付を検討します。内容証明郵便を使えば、いつ・どのような内容の請求を相手に送付したか公的な記録が残り、後日の法的手続きでも証拠として活用できます。特に支払いの督促では、「○年○月○日までに○○円を支払うよう求めます。期限までに履行がない場合は契約解除及び法的措置を講じます」といった内容を内容証明で送ることで、相手に法的リスクを認識させる効果があります。
この初動対応によって相手が履行に応じればベストですが、応じない場合でも次のステップへの布石となります。
交渉による解決策の模索
相手方が債務不履行の事実を認めている場合や、争いなく話し合いができる状況であれば、交渉による解決を目指します。ビジネス上の関係をできるだけ維持したい場合、訴訟に入る前に双方の落とし所を探ることは有益です。
具体的には、履行内容や期限の再調整を検討します。例えば支払いが難しい相手には、新たな支払い計画(分割払い・支払期限の延長等)を合意し文書に残すことで、最終的に債権回収につなげる方法があります。不良品や履行不備であれば、代替品の提供や無償修理、料金の値引き対応など代替策について協議します。また、和解交渉の一環で損害賠償額や違約金の減額交渉を行うことも考えられます。
交渉の際には感情的な対立を避け、契約上の権利に基づいて冷静に話し合うことが重要です。
必要に応じて弁護士を通じて交渉することで、専門知識に基づいた適切な提案や合意書の作成が可能となり、後日の紛争防止に役立ちます。合意に至った場合は、口約束で終わらせず書面(合意書や覚書)を作成し、お互い署名押印しておきましょう。これにより、新たな合意内容が明確になり、約束の履行確保にもつながります。
法的手段の活用 – 訴訟・調停・ADR
交渉によっても解決しない場合や、相手方が全く応じない場合には、法的手段に訴えることを検討します。代表的な法的解決手段には民事訴訟(裁判)提起、裁判所を通じた調停の申立て、そして弁護士会などが実施するADR(裁判外紛争解決手続)の利用があります。
訴訟(裁判)は、裁判所に訴えを提起し、判決によって権利を実現する方法です。支払い請求訴訟で勝訴すれば強制執行が可能な債務名義(判決文)を得られますし、契約解除や損害賠償額の確定も図れます。
ただし、裁判は解決までに時間と費用がかかり、公開の法廷で争うためビジネス関係の悪化は避けられません。
訴訟を起こす際は、証拠書類(契約書、請求書、内容証明郵便の写しなど)を揃え、弁護士に依頼して進めるのが一般的です。
民事調停は、簡易裁判所の調停委員を交えた話し合いによる解決手続きです。
訴訟よりも柔軟で非公開の場で行われ、当事者間の合意による解決を目指します。調停が成立すると調停調書という書面が作成され、これは判決と同様の効力(強制執行可能な債務名義)を持ちます。訴訟に比べ費用も抑えられ、当事者の納得感のある解決が期待できます。
ADR(裁判外紛争解決手続)は、弁護士会や民間の紛争解決機関が提供する話し合いの場で、仲裁やあっせんとも呼ばれます。中立な第三者が間に入って当事者同士の合意成立をサポートする制度であり、裁判によらずに紛争を解決できます。
当事者間の関係をできるだけ維持したい場合や、非公開で迅速に解決したい場合に適しています。ADRで成立した和解契約に裁判所の認証を得れば、調停調書と同様に強制執行力を持たせることも可能です。
どの法的手段を選択するかは、案件の重大性や緊急性、相手の態度、費用対効果などを総合的に考慮して判断します。
例えば、金額が大きく相手が支払う意思もなさそうなら直ちに訴訟提起を検討すべきですし、関係修復の余地があるならまず調停やADRでの話し合いを試みる価値があります。いずれの場合も、専門家である弁護士に相談し適切な助言を受けることをお勧めします。
まとめ
債務不履行は企業活動において避けて通れないリスクですが、契約内容の明確化や信用調査など事前の対策によって発生率を下げることが可能です。
それでもトラブルが起きてしまった場合は、契約書に基づいて冷静に対応し、証拠を残しつつ迅速に相手方へ履行を促すことが肝要です。
話し合いによる解決が望めないと判断したら、早めに法的手段に切り替えて自社の権利を守りましょう。契約トラブル対応は専門的な判断が求められる場面も多いため、状況に応じて企業法務に詳しい弁護士の助言・サポートを得ながら、適切な解決を図ることが大切です。
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