錯誤取り消しの要件、裁判例のポイントについて弁護士解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.錯誤取り消しとは?

契約を結んだ後で、「こんなはずじゃなかった!」という事態に陥ったことはありませんか。

たとえば金額を取り違えて契約してしまったり、購入した物が思っていたものと違ったりといったケースです。

このように契約時の勘違いのことを法律用語で「錯誤(さくご)」といいます。民法上、錯誤が認められると契約を取り消すことができます。しかし、どんな勘違いでも自由に契約をなかったことにできるわけではなく、法律では錯誤が成立するための要件(条件)や効果が定められています。

本記事では、民法における「錯誤」について、要件や裁判例を解説していきます。

この記事は、

  • 契約上のトラブルで錯誤の適用可能性を検討している人
  • 勘違いで契約してしまった人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2025.2.26

 

錯誤とは

「錯誤」(さくご)とは、日常的な意味では「まちがい」や「誤り」を指す言葉です。

法律上も基本的には同じく「思い違いによるミス」のことですが、特に契約や法律行為において意思表示と真意が食い違ってしまった状態をいいます。

簡単に言えば、契約するときに何か重大な勘違いをしていた状況です。

民法上、錯誤には大きく2種類あります。


表示の錯誤: 表示行為(言葉や文章など)のミスです。つまり、自分の本当の意思とは違う内容を相手に伝えてしまった場合を指します。例えば、売買契約で「100万円で売ります」と言うつもりが言い間違えて「10万円で売ります」と伝えてしまったケースなどが表示の錯誤です。

動機の錯誤: 意思決定の動機(理由)に関する思い違いです。これは、伝えた内容自体は自分の意思どおりだけれど、その意思を持った前提に誤解があった場合を指します。例えば、「この絵は有名画家の作品だから買おう」と思って「この絵を買います」と契約したが、実はその絵は有名画家の作品ではなかった場合などが動機の錯誤にあたります。

いずれの場合も、本人は契約時に自分の誤りに気づいていない点が特徴です。つまり、後になって「しまった!勘違いしていた…」と気づくことになります。


錯誤が問題になるのはどんな場面?

錯誤は、契約や遺産相続の放棄、離婚協議書の取り決めなど法律行為全般で問題になりえます。

しかし、特に法律関連で多いのは契約に関する錯誤です。

具体的には以下のような場面で錯誤が問題となります。

金額や数量の入力ミス:契約書やネット注文で桁を間違える、数量を誤記するなど。

例:「100万円」と書くつもりが「10万円」と書いてしまった。

 

売買の対象に関する誤認:買ったものや売ったものの品質・種類を取り違えていた。

例:高級ブランドの本物だと思って購入したが実は模造品だった。

 

契約条件の誤解:契約の内容や法律上の効果を誤解していた。

例:保証人の契約書に単なる立会人のつもりで署名してしまった(実は多額の債務を保証することになっていた) 等。

 

こうした場合、「その契約は本当に有効なのか?取り消せないのか?」という問題が生じます。

民法95条は、この錯誤に基づく意思表示についてルールを定めており、一定の要件を満たせば契約を取り消すことが可能だとしています。

では、その錯誤が成立するための要件を詳しく見ていきましょう。

 

錯誤が成立する要件

民法上、錯誤によって契約(意思表示)を取り消すことが認められるのは、以下の4つの要件を満たす場合です。

錯誤の種類 – 契約時の意思表示が「表示の錯誤」または「動機の錯誤」に基づくこと

前述したとおり、単なる勘違いでも法律上で保護される可能性があるのは、「言い間違いや書き間違い」など表示ミスによるものか、「契約の動機に関する誤解」など動機ミスによるものに限られます。

自分の中だけの気まぐれや勘違いではなく、法律行為(契約)の要素として重要な部分での錯誤である必要があります。

錯誤が重要なものであること

法律上取り消せる錯誤は、その契約の目的や社会通念上重要なポイントに関する勘違いである場合だけです。言い換えると、「もしその誤解がなかったら普通は契約していなかっただろう」と言えるような重大なポイントである必要があります。

価格や数量の間違い、契約の対象の同一性に関わる誤認などは典型的に重要な錯誤といえるでしょう。一方、多少の思い違いや瑣末な点での誤解は「重要」とはいえず、錯誤取消しは認められません。

 

(動機の錯誤の場合)その動機が相手方に表示されていたこと

これが動機の錯誤特有の条件です。契約の動機(理由)に関する誤解の場合、その動機を事前に相手に伝えて共有していたのでなければ、法律上の錯誤とは認められません。なぜなら、自分の内心の理由を相手に伝えていなかった場合、契約相手からすれば知りようがなく、それを理由に契約を取り消されては予想外すぎて不公平だからです。

 

▼ 動機の錯誤が認められるか否かの具体例

取り消しが認められる場合: 購入交渉の中で、「〇〇だからこの物件を買いたい」とはっきり相手に伝えていた。

例えば「山手線の内側にある物件が欲しかったので購入します」と動機を伝え、それに基づき契約したが、実際にはその物件が山手線の外側だったケース。→ 動機(山手線内にあること)が相手にも契約の前提として共有されていたので、重要な錯誤として取り消し可能になる。

取り消しが認められない場合: 自分の中で「山手線の内側の物件が欲しい」と思っていただけで、その動機を相手に言っていなかった場合。→ 相手はその内心の目的を知りえないため、その点の勘違いを理由に契約を取り消すことはできません。

このように、動機に基づく誤解の場合は事前の意思表示の内容になっているか(相手と共有されているか)がポイントになります。

なお、このルール自体は昔から判例で確立していた考え方であり、「動機は表示されて初めて契約内容の要素になりうる」と大審院判決(※現在の最高裁判所に相当する昔の裁判所)も示していました。2020年の民法改正では、この判例ルールが明文化され、現在の民法95条2項に規定されています。

動機については、通常は契約書には書かれないため、裁判などでは、動機を示していたことを証明できるかがポイントになります。口頭ではなく、メール、LINEなどのやりとりが残っていれば重要な証拠になるでしょう。

 

表意者(意思表示をした人)に重大な過失(著しい不注意)がないこと

勘違いをした側にあまりにも不注意な落ち度がある場合には、原則として錯誤による契約取消しは認められません。

これは「自分の重大なミスは自分で責任を負うべき」という考えによるものです。

例えば、契約書の金額を確認せずハンコを押したようなケースで、「よく見ていれば防げたはずの間違い」であれば、そのミスについて法律は保護してくれない可能性が高いです。

もっとも、この要件には例外があります。以下のような場合には、たとえ表意者に重大な過失があっても錯誤取消しが認められます。

 

重大な過失への例外

相手方が表意者の錯誤に気付いていた場合(= 相手があなたの勘違いを知りながら契約に乗ったケース)

相手方が表意者の錯誤に重大な過失によって気付かなかった場合(= 本来気付けたはずなのに相手もぼんやりして見過ごしたケース)

相手方も表意者と同じ錯誤に陥っていた場合(= お互いに同じ勘違いを共有していたケース)

 

いずれも、相手方にも落ち度があったり事情を知っていたりするため、表意者側のミスだけを理由に契約を有効にさせておくのは公平でない状況です。

そのため法律は、こうした場合には表意者に重大な過失があっても特別に契約を取り消せると定めています(民法95条3項)。

例えば、明らかに相場より安い価格で売ろうとしているのを相手方が不審に思いながら黙って契約を結んだような場合は、相手も気付けたはず(または気付いていた)なので錯誤取消しが認められやすいでしょう。


錯誤の要件

2020年の民法改正で変わったポイント

2020年4月施行の改正民法により、錯誤に関する規定がいくつか変更・明確化されました。

その主なポイントは次のとおりです。

「無効」から「取消し」へ

改正前の民法では、錯誤がある契約は初めから無効とされていました(旧95条)。法律的には無効と取り消しは効果が違います。無効だと、契約後に関与した第三者を保護しにくいなどの問題がありました。

改正民法では、錯誤があっても一旦契約は有効とし、後から取り消すことができるという扱いに変えています。取消しにより契約を遡って無効にできる点は同じですが、取り消されるまでは契約が有効なので、その間に入った第三者を守りやすくなります。

また、「無効」と違い、取消権には期限があります。表意者は錯誤を知ってから5年以内(契約時からでも20年以内)に取り消さなければならなくなりました(民法126条)。

これにより、契約関係がいつまでも不安定なまま放置されるのを防ぎ、取引の早期安定を図っています。

 

動機の錯誤の明文化

改正前は条文上「錯誤」としか書かれておらず、表示の錯誤だけが念頭に置かれていました。

しかし、判例で動機の錯誤も一定条件下で認められていたため、改正民法では動機の錯誤についても条文で明確に規定しました(95条1項2号・2項)。

先に述べたように、「動機が相手に表示されて内容となっていたこと」が要件として明記されています。

 

第三者保護規定の新設

改正により、錯誤取消しについて新たに第三者保護の規定が置かれました(民法95条4項)。

具体的には、錯誤による取消しは、その錯誤について善意無過失(勘違いの事実を知らず、過失もない)の第三者には対抗できないと定められています。

例えば、AさんがBさんに土地を売った後、Bさんがその土地を事情を知らないCさんに転売してしまった場合、Aさんが錯誤を理由にBさんとの契約を取り消しても、善意無過失のCさんに対抗(主張)できません。

Cさんは土地の所有権を失わず保護されることになります。このように第三者の権利にも配慮した規定が追加されました。

以上が錯誤の成立要件と改正ポイントです。

では次に、錯誤が問題となる典型的なケース(争点や事例)を見てみましょう。

 

錯誤の典型的な争点

日常で起こりやすい錯誤のパターンを、具体例を挙げながら説明します。それぞれどんな点が争いになり、錯誤が成立するかどうかのポイントは何かを確認してみましょう。

ケース1: 価格を間違えた!(価格の錯誤)

<事例> ネットショップを運営するA社は、本来10万円で販売すべき商品を、担当者の入力ミスで1万円と表示してしまいました。それを見たBさんが注文し、決済も完了。後から誤表示に気付いたA社は「あの価格は間違いでした」とBさんに伝えましたが、Bさんは「契約成立したのだから1万円で商品を引き渡してほしい」と主張しています。

これは典型的な「表示の錯誤」です。売主であるA社が表示した価格に入力ミス(桁間違い)があり、真意とは異なる価格を表示してしまっています。価格は契約内容の根幹ですから、この誤りは民法上「法律行為の要素に関する錯誤」、つまり重要な錯誤と言えます。

結論からいうと、A社は錯誤を主張して契約を取り消すことが認められる可能性が高いです。なぜなら、このケースは要件をおおむね満たしているからです。

表示の錯誤に該当(要件1〇)
価格の誤りは契約の目的に照らし極めて重要(要件2〇)

A社のミスに重大な過失があるかどうか:入力チェック体制等にもよりますが、一度掲載した価格に基づいて注文が入り契約が成立してしまった以上、単なるうっかりミスであって重過失とまでは言えない場合も多いでしょう。

このような桁違いの誤表示は、過去の裁判例でも錯誤無効(現在の制度では取消し)を認める判断が下された例があります。

実務上も、「明らかに設定ミスと思われる異常な安値」のケースでは売主側が錯誤を主張して契約を取り消し、買主側も泣き寝入りせざるを得ない場合が少なくありません。

もっとも、買主Bさんの立場から見ると、「その価格で確かに注文し代金も支払ったのだから契約は有効では?」と感じるでしょう。

ポイントはBさんがその誤りに気付いていたかどうかです。もしBさんが1万円という価格を見て「何かの間違いでは?」と薄々感づいていたなら、Bさんには悪意または重大な過失があることになります。

その場合、表意者A社は自分の重過失があっても錯誤取消しを主張できますし(相手方が錯誤を知っていた場合)、逆にBさん側から見るとA社の錯誤取消しを阻止することは難しくなります。

一方、本当にBさんが全く疑わずに「ラッキー!安い!」と思って購入していたような場合(善意無過失)、錯誤取消し自体は成立しますが、Bさんが既に第三者(善意の第三者)となって商品を転売していた場合などにはBさんが保護される可能性もあります。

錯誤の事例では、このように相手方の善意・悪意や過失の有無も結果に影響する点に注意が必要です。

 

ケース2: 商品・物の性質に関する誤解(性質の錯誤)

<事例> Cさんは骨董市である陶器の壺を50万円で購入しました。

売主からは「由緒ある江戸時代の壺です」と説明を受け、Cさんもそれを信じて購入しました。

しかし、後日、鑑定に出したところ、その壺は明治時代の量産品で時代錯誤の説明が誤りであると判明。

Cさんは「説明と違うじゃないか」と契約の取消し(または代金返還)を求めています。

 

このケースでは、Cさんも売主も壺の本来の価値や来歴を誤認していました。

売主が故意に嘘をついたのではなく(※もし故意なら錯誤ではなく詐欺の問題になります)、双方が「江戸時代の価値ある壺だ」という誤解を共有していたとします。

これは契約の目的物の性質に関する錯誤であり、広い意味では「動機の錯誤」にあたります(Cさんにとっては動機の錯誤、売主にとっては表示の内容自体が誤っていた状態とも言えます)。

 

ポイントはその「江戸時代の壺である」という性質が契約の重要な要素だったかどうかです。骨董品の価値は来歴や時代で大きく変わるのが通常なので、この点は極めて重要な要素と言えるでしょう。

さらに、売主もその点を誤解して説明しており、Cさんもそれを信じて契約しています。つまり売主と買主双方が同じ誤解に陥っていた(共通錯誤)状態です。

このような場合、先述の要件4の例外「相手方(売主)も表意者(買主)と同一の錯誤に陥っていた」に該当します。

したがって、Cさんの側に重大な過失がなければ(専門家でないCさんがその場で真偽を見抜けなくても無理はありません)、錯誤による契約取消しが認められる可能性が高いでしょう。

実際の裁判例でも、売買の目的物に関する重要な性質の誤認があった場合に錯誤(要素の錯誤)を認めたものがあります。

例えば、離婚に伴う財産分与で不動産を譲渡する契約をした事案で、譲渡する夫が「譲渡しても税金はかからない」と誤信していたケースでは、その誤信が契約の基礎として双方に共有されていた事情を重視し、錯誤無効(現在は取消し)が認められました。

これは動機(税負担の有無)に関する誤解ですが、妻も夫のその意図を理解した上で合意していたため、契約内容の前提となっていたという判断です。

上述のように、対象物の品質・性質に関する錯誤では、「それが契約上重要な要素だったか」「その認識が相手と共有されていたか」がカギになります。

単に買主側が心の中で期待していただけの場合は取消しは難しいですが、パンフレットや口頭説明などでそれが契約の前提として提示されていたなら、錯誤が成立しうるのです。

なお、この例では売主も誤認していましたが、もし売主が最初から真実を知っていた場合は「錯誤」ではなく契約不適合責任(瑕疵担保)や詐欺の問題になります。錯誤はあくまで双方に悪意がなく善意で勘違いしていた状況に適用される点にも注意しましょう。

 

ケース3: 契約の内容・法律効果の誤解(法律行為の効果に関する錯誤)

<事例> Dさんは友人から頼まれてある書類にサインしました。

友人いわく「ちょっとローンを借りるのに保証人が必要で、名義を貸してほしい。迷惑はかけないから」と言われ、深く考えず署名捺印。

しかし、後日、友人が借金を返済できなくなり、Dさんに「保証人だから代わりに支払ってください」と請求が来ました。Dさんは「保証人になるなんて聞いてない!ただの形だけの署名だと思っていた」と慌てています。

 

このケースは、契約(保証契約)の法律上の効果に関する誤解です。Dさんは署名した書類の本当の意味=「保証債務を負う契約」だと理解していませんでした。つまり、自分がどんな法律行為をしたのか、その効果を取り違えていたわけです。これは広い意味で表示の錯誤とも言えます(Dさんの内心では保証する意思がなかったのに保証の意思表示をしてしまった状態)。

 

結論として、このケースで錯誤が主張できるかどうかは微妙なラインです。

一見、Dさんは勘違いして契約しており取り消せそうですが、いくつかハードルがあります。まず要件2の「錯誤が重要なもの」については満たし得るでしょう。

保証人になるかどうかは極めて重要な点です。

Dさんは「自分が保証債務を負うこと」自体を理解していなかったのですから、真に理解していれば署名しなかった可能性が高いと言えます。

問題はDさんに重大な過失があるかどうかです(要件4)。

一般に、書類にサインする前に内容をよく読むのは自己責任です。

それを怠っていたとなれば「相当不注意だった」と判断される恐れがあります。

 

裁判例でも、契約書の重要な条項を確認しなかった当事者について重過失を認定し、錯誤の主張を退けた例があります。Dさんは友人の言葉を鵜呑みにして書類を深く読まなかった可能性が高く、その点が重大な過失と評価されるかもしれません。一方で、友人側に落ち度や不誠実さがあったとも考えられます。もし友人が「形だけだから」と嘘をついていたなら詐欺の問題になり得ますし、少なくともDさんに保証の意味を十分説明していなかったわけです。

友人は契約の相手方ではありませんが、金融機関(債権者)から見ても、Dさんがそのような状態で保証契約をしたことについて債権者側に落ち度がないか検討の余地があります。仮に裁判になった場合、Dさんの錯誤主張が認められるには、債権者がDさんの錯誤に気付いていた(または重大な過失で気付かなかった)といえる事情が必要になるでしょう。

例えば契約時に明らかにDさんが保証の意味を理解していなさそうだったのに契約を進めたとか、形式的な手続きを急がせた等です。こうした事情が認められれば、Dさんに重過失があっても錯誤取消しが認められる余地があります。

このケースは実生活でも起こりがちなトラブルです。保証人に限らず、契約書や同意書の内容を誤解したまま署名してしまうケース全般が該当します。

対策としては、契約内容をしっかり読む・理解することが第一ですが、万一「こんなはずじゃなかった」と後で気付いた際は、速やかに専門家に相談しましょう。錯誤が成立するかどうか、他の法的手段(詐欺取消し等)が使えないかなど、個別事情に応じた検討が必要になります。

 


錯誤に関する裁判所の判断ポイント

錯誤を主張して契約を無効(取消し)だと争いになった場合、裁判所がどのような基準で判断するかは気になるところです。ここでは錯誤に関する代表的な裁判例をいくつか紹介し、その判断のポイントを解説します。

判例① 動機の錯誤が認められたケース

「協議離婚に伴う財産分与契約と税金の錯誤」と呼ばれる事例です。

これは、離婚の際に夫が妻へ財産分与(不動産の譲渡)をする契約を結んだ場面で起こりました。夫は当初、「財産分与なら贈与税は課税されないだろう」と考えて妻に不動産を譲渡する合意をしました。ところが実際には多額の税金が発生することが判明し、夫は「そんな税金がかかるとは思っておらず、それが分かっていたら合意しなかった」と主張しました。裁判所の判断: 最高裁判所は、この夫の主張する錯誤(税負担に関する誤解)を認め、財産分与契約の無効(※当時の法律では無効、現在なら取消し)を認定しました。

ポイントは、その誤解(税金がかからないという動機)が契約の前提として夫婦双方に共有されていたかという点です。判決では、夫の動機である「非課税であること」が財産分与契約の内容となっていたと評価できる事情があるとして、動機の錯誤が契約の要素になっていたと判断しました。

その結果、「もし誤解がなければ合意しなかったであろう重要な錯誤」として契約の無効が認められたのです。

この判例のポイントとして、動機の錯誤は本来表に出ない内心の問題ですが、当事者がその動機を契約の条件のように扱っていた場合には法的保護が及ぶことを示したものです。離婚の財産分与という文脈で、税負担の有無は当事者にとって重要な要素ですから、それを双方が当然視していたのであれば、その前提が崩れたとき契約も成り立たない、という考え方です。

 

判例② 動機の錯誤が否定されたケース

近年の最高裁判例で、錯誤の主張が退けられたケースも紹介します。平成28年12月19日の最高裁判決で、信用保証協会が銀行との保証契約について錯誤無効を主張した事案です。

事案の概要: 中小企業向けの特別保証制度(セーフティネット保証)を利用して銀行融資の保証契約を結んだところ、実は融資先の企業がその制度の対象業種ではなかったことが後で判明しました。

保証協会は「対象業種だと思ったから保証したのに、それは契約の重要な前提だった。誤解していたので契約は無効だ」と主張。

最高裁は保証協会の錯誤主張を認めませんでした。

判決理由では、たとえ動機(対象業種に属する企業との認識)が相手方である銀行に伝えられていたとしても、当事者の意思解釈上それが契約内容になっていない限り錯誤には当たらないという基準を示しました。

本件では、市長の発行する確認書など形式的な手続きを経て保証契約が締結されており、「対象業種であること」は必ずしも契約上の明示の条件ではなかったと判断されています。結果として、「保証先企業が制度対象外だと知っていれば契約しなかっただろうが、その動機は契約内容の一部とは認められない」として錯誤無効の主張を退け、契約有効としました。

裁判所は動機の錯誤を慎重に判断しています。

単に動機を伝えていただけでは不十分で、契約条項や合意内容として組み込まれていたかが重要です。

特に商取引や金融取引では、表面的な契約書の条項に現れない動機は保護されにくい傾向があります。このケースでは下級審(地裁・高裁)は錯誤を認めていたものの、最高裁がひっくり返したことで話題になりました。つまり、「相手に伝えていた=契約の内容」とは限らないという厳格な姿勢を示したのです。

 

判例③ その他の錯誤に関する裁判例

上記以外にも錯誤についての判例は多数ありますが、傾向として以下のような点が挙げられます。

表記ミス系の錯誤: 金額の桁間違いや土地面積の単位誤記など、誰が見ても明らかなケアレスミスの場合、裁判所は錯誤を広く認める傾向です。ただし、そのミスに気付かなかった相手方が善意無過失で既に権利を取得しているといった場合には、第三者保護の観点から救済されることがあります。

法律知識の不足による錯誤: 例えば「この契約には法的拘束力はないだろう」と軽く考えていた場合など、法律上の効果についての認識不足は錯誤として主張しても認められにくいです。

「法律の誤認」は基本的に自己責任とみなされ、保護されません。ただし特殊な事情で相手もその点を誤解していたり、信義則上保護すべき場合には考慮されることもあります。

契約書を読み違えたケース: 契約条項の解釈を誤って合意した場合、それは錯誤ではなく契約の解釈問題として処理されることがあります(錯誤でなく単にどちらの解釈が正しいか争う形)。このようなケースでは錯誤主張よりも、契約内容の確定や不明確条項の無効主張など別の法理が適用されることが多いです。

 

以上の判例からわかるように、裁判所は「本当にその勘違いを保護すべきか?」を慎重に判断しています。

動機が契約内容とされたか、表意者に落ち度はないか、相手の利益とのバランスはどうか——そうした点を総合考慮し、ケースバイケースで結論が出されています。

 

錯誤に気付いたらまずすべきこと

勘違いに気付いても、すぐに相手に一方的に「契約は無効だ!」と通知するのは避けましょう。

まずは何がどのように食い違っていたのか事実を整理してください。

契約書やメールのやり取り、見積書など証拠になるものは保管し、自分の誤解していた点やその経緯を書き出してみます。錯誤の要件に照らし、「どのポイントが重要な勘違いだったか」「それを相手に伝えていたか」「自分に落ち度はなかったか」などを整理することが大切です。

錯誤かどうかの判断は法律の専門知識が要求されます。また、錯誤以外にも詐欺や契約不適合など他の法的主張が適しているケースもあります。そこで、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

錯誤の主張が認められる可能性がある場合、錯誤による取消しを行うには、法律上は相手方に対して取り消す旨を意思表示する必要があります(民法123条)。

具体的には、内容証明郵便などで「○年○月○日の○○契約について、当方の錯誤に基づく意思表示であったため契約を取り消します」といった通知を出す方法が一般的です。

もっとも、通知を出すタイミングや文面は慎重に検討しましょう。一方的に取消しを主張するとトラブルが深刻化する場合もありますし、通知内容が不適切だと後の裁判で不利になる恐れもあります。

 

相手方が取消しに同意すれば契約は遡って無効となり(原状回復の手続きを取ります)、解決します。

しかし、相手が同意しない場合は交渉、それでも難しければ裁判(民事訴訟)で争うかを検討ことになります。

交渉では、錯誤の主張だけでなく代替案(例えば代金の減額や契約内容の修正など)を提案し、和解を目指すこともあります。話し合いで折り合わなければ最終的には裁判所の判断に委ねることになり、錯誤による取消しが法的に認められるかを争うことになります。

 

 

当事務所が提供できるサポート

錯誤を含む契約に関するトラブル全般について弁護士が対応いたします。

まず、法律相談のなかで、事案の法的評価を行います。弁護士が事情をヒアリングし、錯誤の要件に該当しうるかを評価します。必要に応じて関連資料(契約書、メール等)を確認し、錯誤以外の主張も含めどのような法的手段が適切か検討します。例えば、相手の説明が不十分だった場合は錯誤より契約不適合による損害賠償や消費者契約法の適用が可能か、といった観点も検討します。

相談の結果、ご希望であれば、みなさまの代理人として、相手方に契約取消しや条件調整の交渉を行うこともできます。

また、弁護士名で内容証明郵便を送付し正式に取消しを主張することで、相手方が真剣に対応してくることもあります。

交渉過程では、単に「契約無効だ」と押し通すだけでなく、相手の事情も踏まえ円満な解決策(和解案)を模索します。

交渉で難しい場合には、訴訟対応(裁判手続き)も可能です。

訴訟では錯誤の主張を立証する必要がありますので、当事務所が法的主張書面(訴状)を作成し、証拠を整理します。実際に提訴する場合も、弁護士が代理人として出廷し主張・立証活動を行います。

 

なお、「錯誤を主張する側」だけでなく、逆に相手から錯誤取消しを主張されて困っているケースにも対応可能です。「本当に錯誤が成立するのか?」「こちらに落ち度があったのか?」といった点を吟味し、正当な権利を守るための反論を行います。また、将来のトラブル予防のため契約書のチェックや重要事項の確認方法などについてのアドバイスも行っています。

 

 

ご相談をご希望の場合には、お電話または相談予約フォームよりご連絡ください。

錯誤についての法律相談(面談)は以下のボタンよりお申し込みできます。

 

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弁護士 石井琢磨 神奈川県弁護士会所属 日弁連登録番号28708

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