家族経営会社における株主総会の法的リスクと対応策を弁護士解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.家族経営会社の株式相続の問題点は?

家族経営会社では株主総会が形式的に行われていないケースが多く見られますが、これが将来大きなリスクに発展する可能性があります。

特に、相続により、株主が分散し少数株主が現れると、問題が出てきます。

この記事では、株主総会決議の不存在・無効確認の訴えのリスクと、それを防ぐための事業承継対策について、実務的な観点から解説します。

この記事は、

  • 家族経営会社の経営者・後継者
  • 事業承継を検討中の経営者家族

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2024.10.27

 

家族経営会社における株主総会の実態

多くの家族経営会社では、株主総会が法律で定められた通りに開催されていないのが現実です。

一見問題ないように見えても、実はこれが大きなリスクとなるのです。

なぜ適切な株主総会が開催されないのかといえば、法律の理解不足が大きいでしょう。また、そのような運用で、これまで問題が生じなかったから惰性で進めているという経営者も多いでしょう。

また、今さら手続きを厳格にすることで、かえって対立を招くのではという懸念もありえます。

相続関係では、当事者間で株式譲渡契約が締結されていないのに、経営者となった株主の一存で株主名簿の書き換えがされてしまっており、その有効性から争われることもあります。

株主総会家族

少数株主の問題点

支配株主が全ての株式を保有している場合、株主総会を開かないことに特に問題は発生しません。

しかし、株式が相続により分散し、経営に関与しない少数株主が現れた場合は、大きなリスクが生じます。このリスクには次の2つが挙げられます。

1. 決議不存在確認の訴えが提起される可能性
少数株主は、過去の株主総会の決議が物理的に存在しない、または手続的な欠陥が著しい場合に、その決議の不存在を確認する訴えを提起することがあります。この訴えは、出訴期間の制限がないため、経営権紛争の手段として利用されやすいです。

2. 過去の決議の不存在が確認されると起こる問題
さらに、過去の決議が存在しないと判断されると、その決議に基づく役員の選任や報酬支給にも影響が出ます。さらに、代表取締役が正当な権限を持たないとされ、その後の株主総会での決議も連鎖的に無効となる可能性があります。

 

株主総会決議の不存在・無効確認の訴え

ここで、法的な話に入ります。

株主総会決議に問題があった場合、それを争う手段として「決議不存在確認の訴え」と「決議無効確認の訴え」があります。これらは、過去の決定を無かったことにしたり、無効にしたりする強力な法的武器です。

 

決議不存在確認の訴えとは?

簡単に言えば、「その決議は存在しなかった」と主張する訴えです。

例えば

株主総会が実際には開催されていなかった
開催されていても、多くの株主に招集通知が送られていなかった

という場合に使います。

手続的な暇疵が著しいので、決議が存在するとすら評価できない場合も含みます。


なお、株主総会決議取消しの訴えという制度もありますが、こちらは、株主総会決議の日から3か月以内に提起する必要があるため、使いにくいです。


総会決議不存在確認の訴えの原告適格

株主総会の決議が不存在であると確認を求める訴えの場合、原告になれるかが問題になります。

株主に相続が発生した場合、遺産分割まで株式を他の共同相続人と準共有している形になります。

準共有者は権利行使者1人を定めて会社に通知しないと、株主としての権利行使をすることができないとされています(会社法106条本文)。

この規定があるため、権利行使者が指定されていないと、原則として準共有の状態の株主には原告適格はないとされます。

例外は、準共有株式が、その会社の発行済株式の全部であり、共同相続人の1人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとして登記されている場合、他の共同相続人が、原告適格を有するとした裁判例があります。

 

 

決議無効確認の訴えとは?

これは、「その決議は法律に違反しているので無効だ」と主張する訴えです。

例えば、特定の株主を不当に優遇する内容の決議が株主平等原則に違反して無効とされた裁判例があります。

 

ただし、家族経営会社においては、そもそも株主総会が開催されていなかったり、招集手続に重大な瑕疵がある場合が多いので、決議内容が無効かどうかよりも、決議不存在確認の訴えのほうが使われます。

 

仮処分も合わせて申し立て

総会決議の不存在・無効の確認の訴えを起こす場合、仮処分も使うことがあります。

たとえば、総会内容として、取締役の選任決議を不存在として争う訴訟では、これが認められると、取締役には権限がなくなるはずです。

そこで、取締役の職務執行停止・代行者選任の仮処分ができるとされています。

 

訴えがもたらすリスク

これらの訴えは、会社経営に大きな混乱をもたらす可能性があります。

例えば、過去の役員選任が無効となり、その後の全ての決定が連鎖的に無効になるのではないか、 会社の重要な取引や契約が無効となるのではないかという問題点です。

まさに、会社の土台を揺るがすような事態に発展する可能性があるのです。

当然ながら、自身の経営者時代に、適正な総会運営ができていればよいのですが、仮にしていたとしても、後継者が同様に手続きをしてくれるとは限りません。

そのため、家族経営会社の経営者としては、相続人に株主が分散しないように、相続対策を考えておくことが一つの方法となります。

株主対策

 

遺言による株式相続

後継者に株式を相続させる遺言がある場合、経営の引き継ぎが最もスムーズとなります。

生前対策としては、遺言作成が最適解といえるでしょう。

この場合、他の相続人に株式が分散することはありません。株式が他の共同相続人との準共有状態となることもありません。

しかし、ここにも落とし穴があります。それは「遺留分」という法的な権利です。

 

遺留分とは?

簡単に言えば、相続人に保障された最低限の相続分のことです。

例えば、後継者の長男に全ての株式を相続させる遺言があっても、他の相続人(例:次男)が「自分の取り分が少なすぎる」と主張できる権利があるのです。

相続財産の大部分が株式の場合に発生しうる問題です。

遺留分紛争では、株式の評価額が争われる傾向にあります。

遺留分侵害額の算定の前提として、その株式がいくらと評価されるのかが重要だからです。

当事者がそれぞれ株価鑑定を証拠提出するような事案もあります。

実務上では、財産評価基本通達に基づいて算定した相続税評価額(税務上の時価)によることも多いです。

 

相続人への株式売渡請求

遺言がない場合、会社が相続人に株式を売り渡すよう請求できる場合があります。

遺言がない場合や、遺産分割が行われるまでの間、株式は共同相続人による準共有状態になります。ただし、定款に「相続人に対する売渡請求権」が規定されている会社では、後継者以外の相続人に対して株式を会社が買い取ることを請求できます。

これは、株式の分散を防ぐための手段です。

これにより株式の分散を回避できますが、特別決議が必要である点や、自己株式取得に伴う財源規制に注意が必要です。

さらに、相続人等との間で価格について協議が調わない場合には、裁判所に対して売買価格の決定を申し立てることができます。しかし、裁判所では、税務通達に基づいて算定される価格ではなく、法律上の時価で決めるところ、会社の収益状況が好調の場合には、高額な価格決定とされることも多いとされます。

 

遺産分割による調整

遺言もなく、会社も株式を買い取れない場合、相続人同士で株式を分け合うことになります。

遺産分割がされるまで、共同相続人らでの準共有状態となります。

これが最も複雑で、紛争のリスクが高いケースです。

例えば、長男(後継者)と次男で株式を50%ずつ相続したものの、両者が対立し、会社の意思決定が麻痺してしまうなどの事態が想定されます。

会社の後継者になろうとする相続人は、他の相続人に対し代償金を支払うなどして、株式を取得する必要があります。代償金を用意できなければ、株式は分散したままという不安定な状態となります。

準共有株主の場合、株主としての権利行使を行うには、権利行使者1人を定めて会社に通知する必要があります。

権利行使者の指定は、準共有持分の価格に従いその過半数をもって決めます。

相続人が2人で50%ずつとなっているような場合には、権利行使者すら決められないまま期間が過ぎていくことになります。

株式相続比較表

事業承継対策が重要か

事業承継対策は、会社の未来を守るための保険のようなものです。

適切な対策を取ることで、以下のようなメリットがあるといえるでしょう。

1. 経営の安定性確保
2. 紛争リスクの低減
3. 円滑な世代交代

 

具体的な事業承継対策は次のようなものでしょう。

1. 遺言の作成:最も確実な方法と言われます
2. 生前贈与:計画的に株式を譲渡することができます
3. 定款の整備:相続人への株式売渡請求権の設定をしておきます
4. 株主間契約:株主の権利義務を明確化
5. 後継者の育成:早期からの計画的な育成

遺言の作成は心理的に乗り気にならないことも多いですが、会社経営の基本と考え、少なくとも株式の帰属については、遺言を作成しておいたほうが良いといえるでしょう。

 

よくある質問

1. 家族経営会社で代表者が亡くなった場合、どのような問題が発生する可能性がありますか?

家族経営会社では、支配株主である代表者が死亡した場合、株式の相続を契機に経営権紛争が発生する可能性があります。特に、事業承継が円滑に進まなかった場合、株主総会決議の不存在・無効を巡る争いが起こりやすいです。

 

2. 適式な株主総会が開催されていない場合、どのようなリスクがありますか?

過去の株主総会決議について、少数株主から決議不存在確認の訴えを提起される可能性があります。決議不存在が認められると、過去の役員選任や報酬支給の根拠に疑義が生じ、会社の経営安定性が大きく損なわれるリスクがあります。

 

3. 具体的に、どのようなケースで株主総会決議が不存在と判断される可能性がありますか?

物理的な不存在: 株主総会議事録を作成するのみで、実際には株主総会を開催していなかった場合

法的意味での不存在:多くの株主に対して招集通知がなされていない、招集権限のない者が招集した場合など招集手続の重大な瑕疵



4. 決議不存在確認訴訟を提起された場合、どのような対応策がありますか?

訴え提起後の事情によって確認の利益が消滅する可能性があります。

具体的には、全員出席総会が開かれるような場合です。招集手続に瑕疵があっても、全株主が出席する全員出席総会で決議がなされた場合は瑕疵が治癒されます。

さらに、再決議・追認決議もあります。後の株主総会で改めて同じ内容の決議を行うか、過去の決議を追認し遡及的に有効なものとする決議を行うことで瑕疵が治癒される場合があります。


5. 法令に違反する内容の株主総会決議がなされた場合、どのようなリスクがありますか?

少数株主から決議無効確認の訴えを提起される可能性があります。決議無効が認められると、その決議に基づく行為は無効となり、会社に大きな損害が発生する可能性があります。

 

6. 具体的に、どのようなケースで株主総会決議が無効と判断される可能性がありますか?

株主平等原則に反する差別的な内容の属人的定めを定款に設ける決議
善管注意義務・忠実義務に違反した役員等の責任を免除する決議
財源規制に違反する自己株式取得に関する決議
取締役の選任を議長に一任する決議

 

7. 家族経営会社における円滑な事業承継のために、どのような対策を講じるべきですか?

遺言作成: 後継予定者に株式を相続させる旨の遺言を作成しておくことが重要です。
株式の集約: 法的に有効な方法で株式を集約し、後継予定者へ円滑に承継できるようにしておく必要があります。
適式な株主総会の実施: 紛争を未然に防ぐために、会社法の規定に従い適式な株主総会を実施することが重要です。

 

 

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