特定商取引法の業務提供誘引販売の規制、クーリングオフ要件を解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.業務提供誘引販売取引とは?

「高収入の仕事を紹介する」という甘い言葉に惹かれて高額な商品やサービスを購入したものの、約束された収入が得られない——。

こんな悪質な商法から消費者を守るため、特定商取引法では「業務提供誘引販売取引」という規制が設けられています。

内職商法やモニター商法、さらには最近流行の副業商法、一部のフランチャイズなど、様々な形態の取引に適用される可能性のあるこの規制について解説します。

この記事は、

  • 高収入を約束されたのにマイナスになっている人
  • 業務提供誘引販売でクーリングオフを受けた事業者

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2024.10.15

 

業務提供誘引販売取引とは

特定商取引に関する法律(特商法)は、消費者トラブルが生じやすい特定の取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守る民事ルールを定めています。

その中の一つに「業務提供誘引販売取引」があります。

業務提供誘引販売取引とは、「仕事を提供するので収入が得られる」と消費者を誘引し、その仕事に必要であるとして、商品等を購入させたり、役務(サービス)の提供を受けさせたりする取引のことを指します。

業務提供誘引販売取引という長い言葉を分解してみると、「業務(仕事)を提供するよ~」と誘引(勧誘)して、販売する取引ということです。

 

内職商法の問題点

もともとは、内職商法やモニター商法の問題を規制しようとしたものです。

内職商法(副業商法)とは、業者が商品を購入させたりサービスを利用させることで「高収入の仕事を紹介する」と勧誘し、消費者に高額な費用を負担させる商法です。例えば、ワープロ内職や宛名書き、ステンドグラス製造といった副業が有名で、消費者は商品購入後に仕事を紹介されないことが多く、損失だけが残るケースが一般的です。

仕事量が少なかったり、競争が激しくて仕事を得るのが難しかったりするケースもあります。

一方、モニター商法は、布団や浄水器などの商品を購入させ、モニターとしての報酬を支払うと勧誘しながら、実際にはその支払いが行われない場合が多いという手口です。

「お金を払ったのに、仕事ないじゃないか!」というのが消費者側の意見です。

このような取引では、実際には約束された仕事や収入が得られないにもかかわらず、高額な商品や役務の代金支払義務だけが残るという被害が生じやすいため、特商法で規制の対象とされています。

収入・利益が得られると誤解して高額の商品を買ったりしたものの、利益が得られないという被害です。

 

 

業務提供誘引販売取引の要件

特商法第51条では、業務提供誘引販売取引の要件が書かれています。

(1)「業務提供利益」を収受しうることをもって相手方を誘引し、
(2)「特定負担」を伴う
(3)商品の販売(そのあっせんを含む)、または役務の提供(そのあっせんを含む)に係る取引

「業務提供利益」とは、提供または紹介される業務に従事することで得られる利益のことです。これで「高収入が得られる」などと勧誘することが該当します。

(2)「特定負担」とは、商品の購入や役務の対価の支払い、または取引料の提供のことを指します。内職に必要な機材の購入費用やノウハウ講座の受講料などが該当します。

(3) 商品販売や役務提供の要件では、業務に関連して、商品の販売や役務の提供が行われることが必要です。

他の業者を紹介するなどして販売・提供をあっせんする場合も含みます。

これらの要素がすべて揃った取引が、業務提供誘引販売取引として規制の対象となります。

 

あっせんも含むため、当事者の関係には複数のパターンがありえます。

業務提供誘引

 

業務提供誘引販売取引に該当しそうな商法

典型例として次のようなものが紹介されます。

(1) 内職商法
・データ入力の仕事を紹介するとしてパソコンを販売する
・ステンドグラス製作の内職を紹介するとして製作キットを販売する

(2) モニター商法
・商品モニターになれば報酬が得られるとして高額な商品を販売する

(3) 副業・フランチャイズ勧誘
・副業として軽貨物運送の仕事を紹介するとして軽トラックを販売する
・紹介制清掃業のフランチャイズとして開業できるとして清掃機材や研修を販売する

(4) インターネットビジネス勧誘
・特定のアフィリエイトで稼げるとしてウェブサイト作成サービスを販売する
・ドロップシッピングで収入が得られるとしてECサイト構築サービスを販売する

これらの取引では、高額な支出を伴う割に、実際には約束された仕事や収入が得られないケースが多く見られます。

 

規制の内容

業務提供誘引販売取引に対する規制は、大きく分けて以下の2種類があります:

(1) すべての取引相手に適用される規制
・広告規制(法第53条、第54条、第54条の2)
・迷惑メール規制(法第54条の3、第54条の4)
・氏名等の明示義務(法第51条の2)

(2) 「事業所等によらないで行う個人」を相手方とする取引にのみ適用される規制

・禁止行為(法第52条、第52条の2)
・書面交付義務(法第55条)
・クーリング・オフ(法第58条)
・契約取消権(法第58条の2)

悪質商法の被害者が使いたいと思うクーリングオフを使えるには、「事業所等によらないで行う個人」という要件が追加されます。

 

「事業所等によらないで行う個人」の禁止行為

「事業所等によらないで行う個人」は、保護する必要性が高いと考えられ、禁止行為のほか、クーリングオフ制度なども認められています。

禁止行為には、不実告知もあります。

契約の締結を勧誘するに際し、または契約の解除を妨げるため、重要事項について事実と異なることを告げることです。

重要事項には以下のようなものが含まれます:
・商品の種類、性能、品質、効能
・役務の種類、内容、効果
業務提供利益の見込みに関する事項
・特定負担に関する事項
・契約解除に関する事項 など

また、故意の事実不告知の禁止もあります。
契約の締結を勧誘するに際し、または契約の解除を妨げるため、重要事項について故意に告げないこと。

次に、威迫・困惑行為の禁止があります。
契約を締結させ、または解除を妨げるため、相手方を威迫して困惑させること。

これらの禁止行為に違反した場合、行政処分の対象となるだけでなく、相手方に契約の取消権が付与されます(法第58条の2)。

 

書面交付義務

「事業所等によらないで行う個人」を相手方とする取引では、事業者は法定書面(改正で電磁的方法も可)を交付しなければなりません。

法定書面には、以下のような事項を記載する必要があります:

・事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
・商品または役務の種類
・販売価格または対価
・特定負担の内容
・業務提供利益の内容
・クーリング・オフに関する事項
・その他主務省令で定める事項

書面交付義務に違反した場合、行政処分の対象となるだけでなく、クーリング・オフ期間の起算点が遅れることになります。

 

クーリング・オフ

「事業所等によらないで行う個人」を相手方とする取引では、相手方は契約書面を受領した日から20日間、書面または電磁的記録により無条件で契約を解除することができます(法第58条)。

クーリング・オフの効果は契約がなかったことになる点です。

・事業者は、損害賠償や違約金を請求することができません。
・既に商品の引渡しや役務の提供が行われていた場合、その返還または対価の返還は事業者の負担で行います。
・既に代金の一部を支払っている場合、事業者は速やかにその全額を返還しなければなりません。
・商品の使用により生じた損耗や使用によって得られた利益に相当する金銭の支払いを請求することはできないとされます。

 

契約取消権

「事業所等によらないで行う個人」を相手方とする取引で、事業者が以下の行為をした場合、相手方は契約を取り消すことができます(法第58条の2)。

(1) 不実告知
(2) 故意の事実不告知

取消権の行使期間は、以下のいずれか遅い日から1年以内です。

・当該告げられた内容が事実でないことを知った日
・当該事実を告げられなかったことに気付いた日

取消しの効果は、契約が最初からなかったことになるため、既に引き渡された商品や支払われた代金は相互に返還しなければなりません。

 

「事業所等によらないで行う個人」の要件

クーリングオフなどの規定が使えるかどうかのポイントになるのが「事業所等」の問題です。

会社のような法人はクーリングオフが使えません。個人事業主を含めた個人では、事業所があるかどうかがポイントになるのです。

事業所等は、「事業所その他これに類する施設」とされます。

契約者が、事業のため、事務所や店舗を開設するような場合には、一般的に商取引に習熟しているとされるので、クーリングオフなどの保護規定は不要と考えられています。

事業所等の施設を設けることなく業務をする個人は、実質的には個人に過ぎないと認め、消費者として保護しているのです。

店舗で事業を行っている個人事業者の場合でも、その分野と無関係の業務を事業所等によらないで行う場合には、適用対象となるとの通達があります。

なお、軽貨物自動車の問題の場合で、自宅の住所で、運送業の届出手続を行ったとしても、その運送業務の規模等がもっぱら業務提供業者からの仕事だけという場合には、事業所等によらないで行う個人と評価すべきだという考えがあります。

 

罰則

業務提供誘引販売取引に関する規定に違反した場合、罰則が科されるものもあります。

不実告知や事実不告知などの禁止行為の場合、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその併科(法第70条)としています。

また、広告規制の違反でも罰則があります。

また、法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人または人の業務に関して違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人または人に対して罰金刑を科します(両罰規定、法第74条)。

代表者が1億円以下の罰金刑を受けることもある規定となっています。

 

使えそうな代表例

内職・モニター商法には、さまざまな手口が存在します。以下は代表的な例です。

1.軽急便商法: 軽トラックを購入すれば仕事を紹介するとうたう商法。
2.アフィリエイト商法: アフィリエイトで高収入を得られると勧誘し、必要な講座や情報を有償で提供する。
3.ドロップシッピング商法: 在庫を持たずにEC事業を展開できる効率的なビジネスモデル。売上の最低保証をうたうなどして勧誘し、ホームページ作成費やノウハウの提供対価として高額な負担をさせる。
4.モニター商法: 布団や着物を購入させ、その使用感をレポートすればモニター料を支払うとしながら、支払われない。
5.資格商法: 資格を取得すれば仕事を紹介すると勧誘し、実際には仕事の提供が行われないことが多い。

 

業務提供利益要件で否定されるもの

業務提供利益は、業務提供誘引販売業者が販売またはあっせんする商品・ 役務を利用して業務を行うことが必要です。

業務に必要な商品等を消費者が、自分で普通に入手する場合は、業務提供やあっせんを受けていても業務提供誘引販売取引には該当しません。

また、販売する商品・役務を「利用する」業務である必要があります。

業務:データ入力
販売商品:パソコン
販売役務:講習会、ノウハウ

業務:宛名書き
販売商品:名簿、封筒

なども要件を満たします。

 

運送業務やハウスクリーニングの仕事のあっせんで、注文者である第三者からの報酬支払いであっても、要件を満たすことになります。

これに対し、その商品や役務等で業務を行えば、一般市場で利益をあげられるという場合、例えば、「この資格を取れば就職に有利です」という勧誘では、要件を満たさないことになります。

 

該当しそうな具体例

・所定のパソコンやソフトを購入、講座の受講
→業者が入力業務の仕事を紹介

・ステンドグラス製造機の購入、原材料を購入
→ステンドグラスを買う、販売先を紹介する

・業者指定の軽トラックを購入、加盟金
→運送の仕事を紹介(軽急便商法)

・業者から名簿と封書を購入
→宛て名書きの仕事を紹介

・業者の研修を受けて技術を修得
→ハウスクリーニング等の業務を紹介

・資格講座の受講、教材の購入
→その資格を利用する仕事を業者が紹介

※一般的な資格で役立つ、という場合には非該当

仕事の紹介を勧誘文句とする手口が該当する可能性あり。

・マッサージ業者の研修、講義、資格
→店舗で給与を支払う(裁判例あり)

 

フランチャイズでの否定事例

フランチャイズ契約の場合、内容によって肯定例・否定例があります。

ハウスクリーニングによる肯定例があります。

これに対し、メロンパン移動販売業のフランチャイズ契約での否定例があります。

メロンパンの販売対象は、不特定多数の者であることが想定されることから、メロンパン販売事業提供業者から提供された業務内容によっては、賛助会員契約・販売車両の売買契約を締結することを強く誘引していたものとはいえないとして、「業務提供誘引販売取引には該当しない」とした事例です(仙台地判平21.2.26)。

一般市場での需要を前提とした場合には、業務提供誘引販売取引の主張は通りにくいでしょう。

 

フランチャイズと業務提供誘引販売

フランチャイズの場合、仕事の紹介があるかどうかがポイントです。

清掃業務、家事代行、鍵サービス、水回りの修理等のフランチャイズでは、フランチャイザーが集客を行い、フランチャイザーに依頼してきた顧客をフランチャイジーに紹介する仕組みがあります。

この場合は、仕事の紹介が前提となっているため、業務提供誘引販売取引に該当しやすいです。

これに対し、必要な設備、機材販売やノウハウ提供はするものの、顧客の獲得がフランチャイジーに任されている仕組みだと、提供業務がないことから、該当しないと考えられます。

なお、コンビニなど店舗による小売業のフランチャイズでは、店舗の開設があるため「事業所等によらないで行う個人」の要件で、クーリングオフなどの手段は使えないとされます。

 

アフィリエイトと業務提供誘引販売

副業関係ではアフィリエイトで稼げるという情報商材があります。これが業務提供誘引販売にあたることもあるので、一応、検討してみる価値はあるでしょう。

アフィリエイトは、ホームページやブログに広告リンクを設置し、報酬が支払われる仕組みです。

広告事業者が、アフィリエイト業務に報酬を支払うと誘引するだけでは業務提供誘引販売取引にはなりません。

委託するアフィリエイト業務を行うために必要な機器、ノウハウやサービスを販売し、これらを利用してアフィリエイト業務を行わせる場合には業務提供誘引販売取引に該当する可能性があります。

ここでは、実際に行う、宣伝・広告業務を、アフィリエイト業務の勧誘者が自ら提供したり、あっせん提供して誘引していると評価できるかどうかがポイントになります。

一般的に、このような仕組みの情報商材は多くはないと思いますが、該当する場合には、この規制が使えることになります。

 

割賦販売法との関連

内職・モニター商法では、商品代金の支払いにクレジット契約を利用させる場合が多いため、割賦販売法も適用されます。

2000年の法改正以降、業務提供誘引販売取引における不履行が割賦販売契約に対する抗弁の対象として認められるようになりました。

クレジットの分割の場合に、未払金の支払を拒絶する場合には、この主張をしていくことになるでしょう。

 

業務提供誘引販売の検討

このように、業務提供誘引販売は、意外と多くのシーンで使える可能性があります。

内職商法を想定した規制ですが、ネット、スマホ、SNSの普及と、副業解禁の流れで、副業に関する勧誘がさらに増えることが見込まれます。

悪質な商法だと感じた場合には、この規定でのクーリングオフを検討してみると良いでしょう。

また、このような構造のビジネスを展開する場合には、業務提供誘引販売に該当する可能性がないか、該当する場合には、しっかりと規制対策もしておく必要があるでしょう。

訪問販売を主な営業方法として活用している分野では、このような対策がしっかりされている傾向がありますので、そのような事業を参考にして、ビジネスの前提が崩れないようにしておきたいところです。

 

 

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弁護士 石井琢磨 神奈川県弁護士会所属 日弁連登録番号28708

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