死刑囚が原告でも、民事裁判に出席できないと取り下げたものとされるとした最高裁判決を弁護士が解説

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Q.民事裁判に行けないと取り下げたものとされる?

民事裁判の出席ルールの一つに裁判期日に法廷に行くというものがあります。

このルールが守られない場合にどうなるのか、新しい判決とともに解説しておきます。

今回の判決は、最高裁判所令和5年9月27日判決です。

この記事は、

  • 民事裁判を起こしたい人
  • 裁判所に行けない人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2024.7.26

 

 

民事裁判は出席が必要

民事裁判は、裁判所の法廷に出席するのが原則です。

例外的にウェブ裁判、電話会議などの弁論準備期日で進められることもありますが、法廷への出席が原則ルールになっています。

民事裁判のルールを決めている民事訴訟法では、裁判が起こされているにもかかわらず、当事者が裁判期日に来ない場合、訴えを取り下げたものとみなすというルールがあります。

しかし、現実には、裁判所に行けない場合もあります。

今回は、刑事裁判で死刑が確定している人が民事裁判を起こした場合、このルールをどうするのかとの点が問題になった事例を解説します。

この決定は、Xが収監されている刑事収容施設が裁判への出頭を認めなかったために、口頭弁論期日に2回連続して出頭できなかった(被告も出頭しなかった)という状況で、民事訴訟法263条後段の適用が問題となった事例です。

 

民訴法263条後段の趣旨

民訴法263条は、当事者双方が訴訟追行に対して不熱心な場合に、訴えの取下げを擬制する規定です。

「当事者双方が、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をした場合において、一月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなす。当事者双方が、連続して二回、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をしたときも、同様とする。」

 

この規定は、訴訟が適切に進行しない場合、裁判所の効率的な運営を妨げることを防ぐために設けられました。このような措置は、訴訟の整理と迅速な解決を図るために不可欠とされています。

 

現行の263条では、期日指定の申立てをしない期間が3ヶ月から1ヶ月に短縮され、さらに当事者双方が連続して2回欠席等をした場合にも訴えの取下げが擬制されることが定められています。

これは、当事者が口頭弁論の期日への欠席と期日指定の申立てを繰り返す事例が増えているため、これを防止し、裁判所の効率的な訴訟運営を確保することを目的としています。

 

死刑囚からの民事訴訟提起

死刑囚であるXは、大阪拘置所での収監中にYが執筆した記事により名誉を毀損されたとして、Yに対して損害賠償を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起しました。

しかし、XとYは本件訴訟の第1回および第2回口頭弁論期日に出頭しませんでした。このため、裁判所は新たな期日を指定しました。

Xは、弁護士などの訴訟代理人を選任しておらず、拘置所長の許可が得られないため裁判期日に自ら出頭することはできないなどとする上申書を提出していました。

Xは、弁護士が東京地方裁判所には出頭可能であると述べたとして、本件訴訟を東京地方裁判所に移送することを求めました。一方、Yは本件訴訟が民事訴訟法263条後段により終了していると主張しました。

地方裁判所は、移送決定。

Yが即時抗告を申し立てたという流れです。

 

最高裁判所の判断

高等裁判所では、本件訴訟について新たな口頭弁論期日が指定された以上、民訴法263条後段の「期日」には該当しないとして、訴えの取下げがあったとはみなされないと判断し、訴訟を東京地裁に移送すべきだとしました。Yが許可抗告を申し立て。

最高裁判所第3小法廷は、審理を継続するための新たな期日指定が行われたとしても、民訴法263条後段の適用は否定されないとしました。

Xに訴訟代理人を選任する具体的な見込みがないこと、双方の出頭不在による訴訟運営上の支障が解消される見込みがないことなどから、原決定を破棄し、原々決定を取り消し、移送申し立てを却下しました。

訴えを取り下げたものとみなすと判断したものです。

 

最高裁のこの判断は、民訴法263条後段の「期日」の解釈に対しても重要な見解を示しました。

具体的には、裁判所が期日を延期し、新たな口頭弁論期日を指定した場合でも、それが訴訟の取下げを擬制する条件を妨げるものではないとしました。

この決定は、裁判所が効率的な訴訟運営を行うために、当事者の行動に対して厳格な基準を適用することを支持するものです。

 

最高裁判所の取り下げ擬制の判断理由

民訴法263条後段は、当事者双方が、連続して2回、口頭弁論又は弁論準備手続の期日に出頭しなかった場合、訴えの取下げがあったものとみなす旨規定しています。

同条後段の趣旨は、上記の不出頭の事実をもって当事者の訴訟追行が不熱心であるとして、訴訟係属が維持されることにより裁判所の効率的な訴訟運営に支障が生ずることを防ぐことにあると解されるが、同法には、上記の場合において、同条後段の適用を排除し、審理を継続する根拠となる規定は見当たらないと指摘。

そうすると、上記の場合に、審理の継続が必要であるとして、期日を延期して新たな口頭弁論又は弁論準備手続の期日を指定する措置がとられたとしても、直ちに同条後段の適用が否定されるとは解し得ず、同条後段の「期日」の要件を欠くことになるともいえないというべきであると指摘。

そして、本件訴訟においては、当事者双方が第1審の第1回口頭弁論期日及び本件口頭弁論期日に出頭せず、訴状の陳述もされていないところ、相手方(本件訴訟の原告)は、拘置所に収容されている死刑確定者であり、本件口頭弁論期日に至るまで、訴訟代理人を選任する具体的な見込みを有していたともうかがわれないことからすると、

相手方が主観的に訴訟追行の意思を失っていなかったにせよ、

当事者双方が出頭しないことにより裁判所の訴訟運営に支障が生じており、これが直ちに解消される状況になかったことは明らかであり、

そのほか訴えの取下げがあったものとみなすことを妨げる事情も見当たらない

 

本件訴訟について訴えの取下げがあったものとみなされ、本件移送申立ては不適法であるから、原々決定を取り消し、相手方の本件移送申立てを却下すべきであると結論付けています。

 

「口頭弁論の期日」と「期日の延期」

本件では、民訴法263条における「口頭弁論の期日」と「期日の延期」の意義についても議論が行われました。

「口頭弁論の期日」とは、当事者が口頭弁論に参加し、弁論を行うことが可能な状態の期日を指します。一方で、「期日の延期」とは、予定されていた訴訟行為が行われないまま、次の期日が指定される場合を指します。

原決定では、期日の延期とともに新たな口頭弁論期日の指定が行われた場合には、民訴法263条後段の「期日」に当たらないと解釈されましたが、最高裁はこれを否定しました。

最高裁の判断は、法律の条文の文言通りに、訴えの取下げ擬制が適用されるべきだという厳格な姿勢を示しています。

 

取下擬制を妨げる事情の救済?

本決定において、最高裁は取下擬制を妨げる事情についても言及しました。

やむを得ない事情がある場合、取下擬制が適用されない可能性があることを示唆しています。例えば、突発的な交通事故や緊急の入院などで事前に期日変更の上申を行う時間がなかった場合などが考慮されます。ただし、こうした例外が適用されるためには、その事由が解消された後に訴訟を進行させることが可能である見込みがあることが前提となります。

本件では、Xが訴訟代理人を選任する具体的な見込みがないと判断されたため、取下擬制を妨げる事情はないとされました。

この判断は、当事者の訴訟追行の意欲だけでなく、訴訟の進行に対する具体的な見通しが重要であることを示しています。

 

裁判官宇賀克也の補足意見

判決には、補足意見もありました。

例外的な話などにも触れられています。


同条は、当事者の不熱心な訴訟追行により裁判所の効率的な訴訟運営に支障が生ずることを回避することを目的としているので、交通機関の事故や相手方による訴訟妨害等のやむを得ない事由で出頭できなかった場合にも、例外なく訴えの取下げを擬制することには疑問の余地がある。

原決定は、かかる問題意識の下に、同条の「期日」の概念を限定する解釈をとったものと思われる。

確かに、突発的な交通事故等、事前に期日変更の上申等を行う暇がない事由が発生し、かつ、当該事由が解消されれば事件を進行することができると見込まれる場合にまで、一切例外を認めないことは硬直的すぎるように思われる。そこで、本件において、例外的に民訴法263条後段の規定が適用されないと解し得るかについて検討する。

本件の場合、相手方は、刑事収容施設に収容されている死刑確定者であるところ、刑事収容施設の被収容者に対する出廷許可は、昭和35年7月22日付け矯正甲第645号法務省矯正局長通達「収容者提起にかかる訴訟の取扱いについて」に基づいて運用されており、訴訟について裁判所から召喚を受けた被収容者の出廷については、具体的事案における出廷の必要の程度及び出廷の拘禁に及ぼす影響の程度等を勘案し、施設長の裁量によりその許否を決することを原則としている。

実際の運用としては、出廷許可がされる可能性はきわめて低いようであり(そのことの是非は別に論ずる余地があると思われるものの)、一般的にいえば、本人訴訟を提起する死刑確定者について、民訴法263条後段の訴えの取下げ擬制の例外を認めたとしても、その後、事件が進行する見込みは立たないと思われるので、かかる場合に例外的に訴えの取下げ擬制を排除することが妥当かには疑問が生じ得る。

他方において、本件においては、東京地方裁判所に移送されれば、弁護士を訴訟代理人に選任して、当該訴訟代理人が期日に出頭することが可能であるという上申がなされており、原決定は、この点も考慮して、移送決定をした原々決定を是認したものと考えられ、訴訟追行の意思がある者の訴訟追行の機会をできる限り奪うべきでないという趣旨は理解することができないではない。

もっとも、東京地方裁判所での審理であれば、弁護士を訴訟代理人に選任して訴訟代理人が期日に出頭することができる見込みであることを裏付けるものは、相手方の上申書のみであり、当該弁護士に対する委任状が提出されているわけではなく、かつ、当該弁護士の氏名や連絡先も明らかにされていない。

したがって、当該弁護士が真に受任の意思を表示したかを確認することができず、東京地方裁判所に移送すれば、当該弁護士が訴訟を追行する蓋然性が高いとは判断し難い。

さらに、相手方は、本件口頭弁論期日の直前まで訴訟代理人の選任に尽力したが間に合わなかったというわけではなく、本件口頭弁論期日の約6か月後に本件移送申立てを行っているのであり、民訴法263条後段の規定により生じたはずの訴えの取下げ擬制の効果を、約6か月後の具体性の乏しい上申書により覆滅させることには躊躇せざるを得ない。

 

死刑囚が民事裁判を起こす方法

しかしながら、法廷意見の考え方による場合、本人訴訟を提起する刑事収容施設の被収容者の裁判を受ける権利の侵害にならないかについて、検討する必要がある。

この点については、被告の協力が得られる事案では、最初の口頭弁論期日から被告に出頭を求めれば、民訴法263条後段の規定は適用されず、擬制陳述(民訴法158条)の方法をとることもできるが、被告が一貫して出頭を回避する方針をとった場合には、擬制陳述を行うためには、当事者の一方が出頭している必要があると解されるので、本件のように、本人訴訟を提起する刑事収容施設の被収容者について、民訴法263条後段の規定による取下げ擬制の例外を認めても、実体審理に入ることはできない。

もとより、刑事収容施設の被収容者に資力がない場合、民事訴訟では国選弁護人の制度がないので、実質的に裁判を受ける権利を侵害しないか否かは重要な問題であるが、総合法律支援法に基づく民事法律扶助事業を利用することにより、資力のない者も、民事訴訟で弁護士を代理人とする道は閉ざされていないといってよいと思われる。


以上の点に鑑み、原決定は、訴訟追行の意思のある者の裁判を受ける権利に配慮したと思われるものの、本件の事情の下では、法廷意見に賛成するものである。

 

民事裁判を取り下げたものとみなすルールは、死刑囚が原告でも変わらないよ、本件で、弁護士が期日に来るっていうなら、訴訟委任状を出せばいいんじゃない?早い段階でね。

裁判期日に来られないかもしれないけど、扶助使えば弁護士が見つけられる可能性もあるしね。

という判断のようですね。

 

訴えの取り下げに関する基本ルールはこちら

Q.民事裁判の訴えの取下げ手続きは?

 

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