遺言執行者が相続不動産の登記無効の裁判で原告になれないとした最高裁判決を弁護士が解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.遺言執行者が裁判を起こせない場合とは?

遺言執行者が、相続財産に関する不動産の登記が無効だと裁判を起こしたのに、そもそも原告になれないと反論された判例があります。

包括遺贈の一部が無効になった場合などには注意が必要です。

最高裁判所第2小法廷令和5年5月19日判決です。

この記事は、

  • 遺言執行者の人
  • 包括遺贈の関係者

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2024.7.10

 

判決前後の違い

判決前

・複数の包括遺贈があって一人が放棄したり無効になった場合、どうなるんだっけ?

・包括遺贈がある場合、遺言執行者って登記訴訟の原告になれるのか微妙。

判決後

・遺贈が放棄されたら、相続人に行く、他の包括受遺者には行かない。

・遺言執行者が原告になれない場面が明らかになった。

遺贈の最高裁判決

 

 

遺贈訴訟の事案の概要

本件は、遺言執行者であるXが、Yらが登記名義を有する土地について、本件土地が遺言者の相続財産であり、遺言の内容に反する登記がされていると主張して、Yらに対し、遺言者の相続人からYらに対する所有権移転登記の抹消登記手続等を求めた事案。

亡Aとその妻である亡Bの間には、長男C(Yら補助参加人)及び長女Dがいます。

EはCの子であり、FはDの子である。

平成20年6月に本件土地の所有者である亡Aが死亡。Dは相続を放棄したため、亡Aの所有していた本件土地は亡BとCが各2分の1の割合で共同相続。
平成21年7月、亡Bは、自分の財産について公正証書遺言を作成

・ Dに1/2の割合で相続させる(本件遺言部分1)
・ Dの子であるFに1/3の割合で遺贈する(本件遺言部分2)
・ Cの子であるEに1/6の割合で遺贈する(本件遺言部分3)


平成23年1月、Cは亡Aの相続に関し亡Bと間で本件土地を取得する旨の遺産分割協議書を作成し、本件土地の所有権移転登記を行ったが、この遺産分割協議はBの意思に基づかず無効でした。

遺言執行者と遺贈

平成23年2月、亡Bが死亡。Eは本件遺言に係る遺贈を放棄

平成23年4月、Dの申立てにちる、Xが本件遺言の遺言執行者に選任されました。


平成23年6月、Cは本件土地をYらに売却し、所有権移転登記。

Xは、本件土地がBの相続財産であり、Bの遺言内容に反する登記がされていると主張してYらに対し、本件登記の抹消登記手続等を求める訴えを提起しました。

各遺言内容において、遺言執行者が原告になれるのか、原告適格が争われました。

不動産登記

高裁判決

高等裁判所判決では、Xが本件訴えの原告適格を有すると認め、本件土地の持分2分の1は亡Bの相続財産。

Cによる持分2分の1の処分行為は無効とされ、本件登記の一部抹消を求める本件請求を一部認容し、他の部分を棄却しました。

Yらが上告受理の申立てをし、平成30年改正前の民法1013条の前提となる本件遺言の内容と遺言執行者の権限の範囲が具体的に解釈されておらず、少なくとも本件遺言部分3に係るEの持分部分については、Eの放棄により本件遺言の対象ではないので遺言執行者Xの権限は及ばないと主張。

 

最高裁判決

最高裁判所は、本件遺言部分2に係る包括受遺者Fの持分(Bの相続財産たる本件相続持分の1/3=本件土地の持分1/6)のみXの請求を認容。本件土地についてYらの持分を合計5/6とする更正登記手続きを命じましたが、

本件遺言部分1および3に係る請求についてはXの原告適格を否定

その結果、原判決を変更し、本件請求のうち持分3分の2に関する訴えを却下しました。

高裁よりも、さらに遺言執行者の原告適格を制限しました。

 

包括遺贈の放棄と遺言執行者


最高裁は、「本件遺言部分3に係る包括遺贈は、Eの放棄によってその効力を失ったものであり、Bがその遺言に別段の意思を表示したことはうかがわれないから、Eが受けるべきであった本件土地の持分は、他の包括受遺者であるFには帰属せず、Bの相続人に帰属することとなった」としました。

民法995条本文は、遺贈がその効力を生じない場合、または放棄によってその効力を失った場合には、受遺者が受けるべきであったものが相続人に帰属すると定めています。
包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有しますが(民法990条)、相続人ではありません。したがって、失効受遺分は他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属するという結論です。

  

民法995条は、本文において、遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属すると定め、ただし書において、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うと定めている。そして、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(同法990条)ものの、相続人ではない。同法995条本文は、上記の受遺者が受けるべきであったものが相続人と上記受遺者以外の包括受遺者とのいずれに帰属するかが問題となる場面において、これが「相続人」に帰属する旨を定めた規定であり、その文理に照らして、包括受遺者は同条の「相続人」には含まれないと解される。そうすると、 複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属すると解するのが相当である。

 

 

遺言執行者の権限

財産上の請求に関する訴訟において、遺言執行者は遺言の執行に必要な範囲で相続財産の管理処分権を有します。

その範囲内で訴訟の当事者適格を有すします。したがって、Xが本件訴えの原告適格を有するかどうかは、本件遺言の内容に照らして検討する必要があります。

 

本件遺言の①部分について(判旨1関係)

・ Dに1/2の割合で相続させる(本件遺言部分1)

本件遺言の①部分は、相続財産を一定の割合で相続人に相続させる趣旨の遺言。他の部分と合わせた割合の合計が100%となるものについては、相続分の指定として扱い、遺言執行者の職務は存在しないとする見解があります。本判決は、この見解に従い、Xが相続分指定の遺言を根拠として抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有しないと判断しました。

 

本件遺言の②部分について(判旨2関係)

・ Dの子であるFに1/3の割合で遺贈する(本件遺言部分2)

本件遺言の②部分は、相続財産の3分の1をFに包括遺贈する旨の遺言

遺言執行者は、包括遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に、受遺者以外の者に対する所有権移転登記を抹消する権限を有するとされました。

ここだけ遺言執行者に原告適格を認めています。

 

本件遺言の③部分について(判旨3関係)

・ Cの子であるEに1/6の割合で遺贈する(本件遺言部分3)→放棄

本件遺言の③部分は、Eへの包括遺贈ですが、Eの放棄によりその効力を失っています

失効した受遺分は相続人に帰属すると解されるため、Xの訴えはこの点で認められませんでした。

 

判決のポイント

遺言執行者が遺言に書かれた不動産に関して、登記移転が無効だと主張して裁判を起こせるかが問題になりました。

今回の判決だと、

・相続分の指定部分→不可

・包括遺贈→可

・包括遺贈+放棄→不可

となります。

不可とされた持分については、包括受遺者兼相続人は、自分が原告になって裁判を起こすことになります。

相続人としては、遺言で遺言執行者がいるなら任せたいと考えるかもしれませんが、原告適格なしと判断されると、自分で動かなければならなくなります。

今後は、初動で見極める必要があるでしょう。

 

民法995条の解釈

民法995条の解釈も押さえておくと良いかもしれません。

民法995条は、遺贈がその効力を生じない場合、または放棄によってその効力を失った場合に、受遺者が受けるべきであったもの(失効受遺分)が遺言者の「相続人」に帰属する旨を定めています。ただし、「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したとき」はその意思に従います。

ここで、複数の包括遺贈があり、そのうち一つが失効した場合、相続人と他の包括受遺者が存在する場面となります。

そのような場合に、民法995条本文にいう「相続人」に包括受遺者を含むかが問題となります。

 

本判決は、民法995条本文において、失効受遺分は相続人のみに帰属し、他の包括受遺者には帰属しないとの判断を示しました。これにより、包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)という点は、失効受遺分の帰属には影響しないことが明確にされています。

 

 

 

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