
FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.親子関係不存在の審判に不貞相手は異議だせる?
親子関係不存在の合意をしてしまう父子の審判に対し、不貞相手の男性は異議を出せるかが問題となった事案があります。
手続きとしては、合意に相当する審判が使われるときに、不貞相手という立場から異議を出して自分の主張を考慮してもらえるか問題になります。
大阪高等裁判所令和3年3月12日決定では、この異議は適法と判断されています。
この記事は、
- 不貞行為をして子が生まれている
- 認知請求をされそうという人
に役立つ内容です。
親子関係不存在調停
子には、戸籍上の父と母がいました。母には不貞相手の男性がいました。
子→戸籍上の父に対し、親子関係不存在調停の申立。
家庭裁判所は、家事事件手続法277条に基づき、子と父との間に親子関係が存在しないことを確認する旨の審判。
これに対し、不貞相手の男性が、法279条1項本文に基づき、審判の利害関係人として、審判に対して異議を申し立てたところ、原審裁判所は、利害関係人には当たらないとして、異議の申立てを却下。
不貞相手の男性としては、子の出生当時、子の母親と性的関係を持っていたことから、戸籍上の父との親子関係が存在しないとされると、自分が認知請求を受ける可能性があると考えることになります。そこで、利害関係を主張したのですが、否定されたという流れです。
これを不服として、即時抗告。
不貞・審判の経緯
子は、母と父との婚姻中である平成29年に出生。
母と父は、平成30年4月24日、本件子の親権者を母と定めた上、離婚。
不貞相手は、平成28年頃、母との間で、性交渉を伴う交際関係に。
令和元年10月1日、父との間で、不貞相手の抗告人が、母と5年以上にわたり不貞行為をしたことを認め、父に対し、不貞行為の慰謝料及び養育費の不当利得として500万円の支払義務があることを認めることなどを内容とする合意書を作成し、同金額を父に支払。
子は、令和2年5月13日、母を法定代理人とし、父を相手として、子と父との間に親子関係が存在しないことを確認することを求める調停を申し立て。
母は、申立ての理由として、「母と父は、平成30年4月に離婚しており、以前より不仲のため交渉はなく、本件子は不貞相手との間の子であり、本件父との間に親子関係はない。」などと記載し、子と父との間に父子関係がある確率は0%である旨のNPO法人作成のDNA鑑定報告書を提出。
調停期日において、子(出頭者母)と父との間で、申立ての理由記載の事実関係に争いがないことを確認した上、申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立。
これを受けて、家庭裁判所は、親子関係が存在しないことを確認する旨の本件審判をしたという流れです。
認知等の受任通知
母が委任した弁護士は、不貞相手の手続代理人に対し、今後、不貞相手に対し、認知調停の申立てや、養育費の請求をすることを予定していることなどが記載された事件受任通知書を送付。
不貞相手は、母が本件子を懐胎したと考えられる平成28年当時、母と性交渉があったことは認めているものの、母から、同年10月9日、本件父と避妊をすることなく性交渉したことや、令和元年8月頃、母、父及び子が一緒に沖縄旅行に行ったことを聞いたことなどから、母と本件父がであったという事実は虚偽であると主張。
高等裁判所の判断
このような事実を前提に、不貞相手の男性が、法279条1項本文の利害関係人に該当するか検討されました。
法279条1項本文の利害関係人とは、法律上の利害関係を有する者をいうと解されます。
法277条に基づく審判が対世効を有することを考慮すれば、審判により直接身分関係に何らかの変動が生ずる者に限られず、当該審判によって変動する身分関係を前提として、自らの身分関係に変動を生ずる蓋然性のある者も含まれるというべきであるとしました。
裁判所は、これを本件についてみると、不貞相手は、母が子を懐胎したと考えられる平成28年当時、母と性交渉をしたこと、一件記録によれば、父と母が平成28年当時に性交渉をしたかはひとまず措くとしても、
少なくとも父と不貞相手以外に、母が平成28年当時性交渉をした男性がいる事実は認められないこと、
しかるところ、子と父との間に父子関係がある確率は0%である旨の鑑定書が存在すること、
不貞相手は、父及び母の双方から、子の実父であるとされ、父に慰謝料及び不当利得金を支払う旨の本件合意書を作成したり、母から認知及び養育費の支払に係る法的手続を申し立てる旨の予告を受けていること
が認められることなどからすると、本件審判が確定することにより、不貞相手は、母から認知請求を受け、子との親子関係が形成され、さらには、母から養育費の請求を受け、養育費の支払義務が形成される蓋然性があることが認められるとしています。
そうすると、不貞相手は、本件審判に関し、法律上の利害関係を有すると認めることが相当としました。
以上によれば、本件審判に対する異議は適法というべきであるから、これと異なる原審判は相当ではなく、本件抗告は理由があるとして、原審判を取り消すとしています。
審判に対する異議
法律の第279条第1項は、合意に相当する審判について、当事者や利害関係人が異議を出せるとしています。
利害関係人は理由の有無に関わらず異議が可能です。
これは、審判に不満を持つ利害関係人に対して、裁判での解決の機会を保証する必要があるからだとされています。
親子の人事訴訟
今回の事例では、子と不貞相手との間の親子関係を定める人事訴訟として、認知の訴えが想定されます。
認知の訴えを起こすには、子と本件の父親との間の嫡出推定が排除されていることが訴訟要件とされます。
推定がどうすれば排除されるかについては、
本来は、夫が海外にいたり、事実上の離婚等の事情が必要です。
合意に相当する審判については、生物学的な親子関係の鑑定が以前よりも安価になったこともあり、出されやすくなっています。
この審判は確定判決と同一の効力を持っています。
審判により、当事者だけでなく第三者も親子関係の存否に関する反対の事実を主張してこれを争うことはできなくなってしまいます。
不貞相手が、審判に異議を申し立てることができないとすると、次に想定される認知の訴訟の段階では、親子関係の推定の排除について争えない結果となります。推定の排除について、当事者の合意で進められてしまうと問題が出てきそうです。
このような点を考慮に入れて、本決定は、子との生物学的な父親とされる可能性が高い不貞相手も、審判内容について争う機会を与える必要があると考えたのでしょう。
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