
FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.退職代行サービスは弁護士法違反?
退職代行サービスの依頼後、弁護士法違反を主張し、代金の返還請求をした事件がありますが、個別事情を考慮したうえで請求は棄却されています。
東京地方裁判所令和2年2月3日判決です。
この記事は、
- 退職代行サービスで失敗した
- 退職代行サービスって大丈夫?
という人に役立つ内容です。
事案の概要
退職代行の弁護士法違反が争われた事件です。
被告が退職代行会社。
原告が依頼者。
原告が被告に報酬5万円を支払い、被告が原告の勤務先に対する退職の意思表示を代行する旨の契約を締結。
その後、原告は、代行会社の行為は弁護士法72条本文に違反するから、本件契約は無効であると主張、不当利得返還請求。
また、被告の行為が不法行為に当たり、精神的苦痛を被ったとして、慰謝料50万円を請求したという事件です。
退職代行会社への依頼の経緯
原告は、訴外有限会社で稼働していた者。
被告は、退職に関するコンサルタント業務等を目的とする株式会社であり、ホームページ上で、「あなたの退職に必要な連絡を、代行いたします」、「退職代行費用 正社員・契約社員¥50、000」などと宣伝。
原告は、訴外会社を退職したいと考え、被告に、退職に必要な連絡の代行を依頼し(ただし、契約内容の詳細は不明)、平成30年12月5日頃、報酬として5万円を支払いました。
被告が、訴外会社に対し、原告の退職の意思を伝達したところ、訴外会社の代表者から、原告との関係は雇用契約ではなく業務委託契約であるとの認識が示されました。
被告の担当者は、平成30年12月6日、原告に対し、電子メールで、「会社様と認識に関して一致が確認出来る前で、弊社から会社様にお電話することは出来ません。お客様ご自身と会社様で認識の相違を無くしていただく必要があります。弊社から連絡の代行というサービスの実施は、ご情報の確認が取れない状態で継続は出来かねます。」と連絡。
原告は、平成30年12月10日頃、原告訴訟代理人弁護士に、訴外会社との退職交渉を依頼し、訴外会社を退職。
退職代行が弁護士法違反との主張
被告が、原告との間で本件契約を締結したこと、及び、被告が、訴外会社に対し、原告に代わって退職の意思を伝達したことが、弁護士法72条本文に違反し、本件契約が無効となるか否か、不法行為が成立するかが争点となりました。
弁護士法72条本文の「その他一般の法律事件」とは、法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務の発生する案件をいうと解されています。
原告側は、退職の意思を会社側に伝えることで、「やめる」、「やめさせない」という労使間でトラブルになるケースも少なくないと主張。
また、一般的な会社の就業規則では、退職は1か月前に伝えることになっており、退職に当たっては、民法上の2週間を経過することで退職になるのか、就業規則の30日が経過することで退職になるのかなどの争いも少なくないといえるとも主張。とすれば、退職の意思を会社側に伝達することで、法律上の権利義務に関して争いや疑義があり、又は、新たな権利義務の発生する案件にあたると主張しました。
また、本件契約及び本件行為は、「その他の法律事務」にあたるとも主張。
退職の意思を伝達するだけでは、退職の意思を使者として伝えたにすぎず、代理にはあたらないとも考えられます。
しかし、本人に代わって退職の意思を伝達するだけであっても、退職の意思が会社に到達することで、雇用契約の解除の法律上の効果が発生することから、弁護士法72条の「その他の法律事務」にあたると主張しています。
弁護士法違反の規定と最高裁決定
弁護士法72条本文は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と規定。
ここにいう「その他一般の法律事件」の意義については、従前から、「事件性必要説」と「事件性不要説」の対立があるとされており、前者の中には、「その他一般の法律事件」といえるためには、争いや疑義が具体化又は顕在化していることが必要であるとするものがあり、他方「事件性不要説」は、このような要件の存在を否定しています。
この点、最高裁昭和46年7月14日判決は、弁護士法72条の趣旨について、「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。」と判示。
そして、最高裁平成22年7月20日第一小法廷決定は、弁護士資格等のない者らが、ビルの所有者から委託を受けてそのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室の明渡しをさせるなどの業務を行った行為が、「その他一般の法律事件」に当たるか否かが争われた事案について、当該事案の事実関係を詳細に摘示した上で、「被告人らは、多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。」と判示している点を指摘。
弁護士法違反になるのは紛議がほぼ不可避
思うに、法的な争いや疑義が具体化又は顕在化している事案が「その他一般の法律事件」に該当することは明らかであるとしても、法的な紛議が顕在化しない限り「その他一般の法律事件」に当たらないと解釈することは、上記のような弁護士法72条の趣旨を没却することになりかねず、相当でないと指摘。
他方で、弁護士法72条は刑罰法規であるところ、現代社会においては、あらゆる事象が、およそ何らかの法律に関わっているといえるから、権利義務関係の対立がある案件がすべて「その他一般の法律行為」に該当するとすれば、処罰の範囲が著しく拡大してしまい不当であるとも指摘。
また、争いや疑義が生じる「おそれ」や「可能性」があることを要件とすることも、要件が不明確となり相当でないとも言及。
例えば、弁護士以外の者が広く一般に行っているいわゆるコンサルタント業務の中には、将来、法的な争いや疑義が生じる「おそれ」や「可能性」があるものが多数存在すると思われるが、争いや疑義が生じる「おそれ」や「可能性」があれば「その他一般の法律事件」に該当するとの解釈によれば、これらの行為が、広く同条違反に該当するということにもなりかねないと指摘。
したがって、「その他一般の法律事件」に当たるといえるためには、法的紛議が顕在化している必要まではないが、紛議が生じる抽象的なおそれや可能性があるというだけでは足りず、当該事案において、法的紛議が生じることがほぼ不可避であるといえるような事実関係が存在することが必要であると解するのが相当であるとしました。
裁判所は弁護士法違反を否定
本件についてみると、本件契約の具体的な内容は証拠上必ずしも明らかでないが、被告のホームページによれば、退職に必要な連絡を代行するとされているから、退職の意思を伝達することのほか、退職に伴って生じる付随的な連絡(私物の郵送依頼や、離職票の送付依頼等)を行うことが契約の内容になっていたものと推認。
そして、本件では、被告が訴外会社に原告の退職の意思を伝えたのに対し、訴外会社は、原告との契約関係は雇用ではなく業務委託であるとの認識を示したというのであるから、その時点で、原告と訴外会社との間に法的紛議があることが顕在化したといえると指摘。
しかし、原告の主張を前提にしても、原告は、訴外会社の業務を続けているうちに退職したいと考えるようになり、被告に退職に必要な連絡の代行を依頼し(本件契約)、被告が原告に代わって訴外会社に退職の意思を伝達した(本件行為)にすぎず、本件契約を締結した時点及び本件行為の時点では、原告と訴外会社との間で、法的紛議が顕在化していたといえないことは勿論、これが生じることがほぼ不可避であるといえるような事実関係が存在したとも認められないと指摘。
被告は、訴外会社に対し、原告の退職の意思を原告に代わって伝達しただけであり、訴外会社から、原告との契約関係が雇用ではなく業務委託であるとの回答を受けるや、業務を中止しており、法的紛議が顕在化した後は、訴外会社と交渉等を一切行っていないとしています。
以上によれば、本件は、「その他一般の法律事件」に該当しないから、被告が原告と本件契約を締結したこと及び本件行為を行ったことは、弁護士法72条には違反しないというべきであるとしました。
したがって、本件契約は有効であり、原告が被告に報酬として5万円を支払ったことは、法律上の原因に基づくものであるし、被告が原告と本件契約を締結したことが不法行為に当たるということもできないと結論づけています。
退職代行サービス利用の注意点
退職代行業者一般に関する内容というより、個別の事情も考慮したうえでの判断となります。
弁護士法違反の場合には、刑事問題にもなることから、契約が無効と判断される可能性も高いです。
しかし、弁護士法違反かどうかは、上記のとおり個別事情も考慮したうえで判断されることになり、業者側もこの問題については慎重に対応していることがほとんどです。
今回は、ただ単に、使者としての伝達だけでは、無効にならないという判断となっています。
主張された広告内容からすると、原告としては支払について納得できない面もあろうかと思います。
退職代行サービスを利用する場合には、このように、簡単な法的主張をされただけで費用が無駄になることもありますので、注意が必要でしょう。
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