
事例紹介
ケース紹介
未払い残業代交渉の事例
厚木市内に本店がある会社からの相談でした。
退職した従業員から未払残業代の請求が内容証明郵便で届いたという相談です。元従業員には弁護士がつき、弁護士からの内容証明郵便による請求がされました。
概算による請求
当初の請求は、一部が概算による請求でした。
労働者側がタイムカードの写しなどを所持している場合には正確な計算ができますが、そのような資料が一部でも不足していると、残業代の請求ができないことになります。
この場合、労働者側としては、会社に対して資料の開示を求めたり、裁判所を使った証拠保全で資料を確保することも考えられます。それ以外に今回のように概算での請求をするとともに、資料の開示を求める方法もあります。
このような方法は、残業代の請求に限らず、請求側に資料がない過払い金の請求などでも使われる方法です。
労働事件では、タイムカードなど勤務時間に関する資料のほか、賃金台帳や給与規定、就業規則などをあわせて開示請求することも多いです。給料の計算方法がどのようなものであったのか、そのルールを確認するためにこのような請求もあわせてされることがあります。
交渉による解決
相談者の会社では、弁護士の内容証明郵便に対して、保管している資料は任意に開示し、あらためて残業代の請求がされたものの、法的に自分たちの主張する計算方法が認められないのか相談に来ました。
小規模な企業のため、人事担当などもおらず、社労士もつけていない状態でした。相談者が主張している法的内容は、残念ながら素人判断で、裁判等では通用しにくい主張でした。
しかし、計算方法等については争う余地がありました。
たとえば、タイムカードについて、打刻された時刻はあくまで入退館の記録であり、直ちに労働時間を記録したものとは言えません。
特に早出勤務については、原則として始業時刻から勤務が開始されたものと解されます(東京地判平成25年12月25日等)。
もっとも、始業時刻から1時間以上早い出勤などがある場合には、業務命令があったものと推認されることになるでしょう。
また、タイムカードの打刻時間内でも休憩時間の長さが問題になります。
さらに、過去の給料としての支給額に、給料以外の費用も含まれているような場合、労働の対価ではないものを除く対応も必要です。
和解による解決
このように、計算方法について争いがあったことから、金額交渉となりました。
会社も、支払を拒絶し裁判で争うという考えはなく、法的に通らない主張なのであれば断念し、社労士を通じての体制づくりを検討することとなりました。
そのため、代理人間で交渉を進め、裁判外での和解契約書を作成し、合意することができました。
未払い残業代の和解金と源泉徴収
給料を支払う場合には、所得税等の源泉徴収をします。
その源泉徴収分は、会社から税務署に払う流れとなります。
未払い残業代の請求であっても、その性質は給与ですので、課税対象になります。そのため、会社側としては源泉徴収義務があると考えられます。
和解金が給与としての性質を有するのであれば、給与が遅配された場合と同様に取り扱うことになります。
和解ではありませんが、所得税に関し、給与等の支払いをする者が、その支払いを命ずる判決に基づく強制執行によりその支払をする場合であっても、源泉徴収義務を負うとした最高裁判例(平成23 年3月22 日判決)もあります。
そのため、税務リスクを避けるためには、和解金の支払い時にも源泉徴収をしておく、何年の未払い残業代であるのか、何の源泉徴収なのかを和解書に盛り込んでおく方が無難でしょう。
未払い残業代請求を受け、お困りの方は、ぜひご相談ください。