
事例紹介
ケース紹介
相続財産管理人の選任申立、交渉の事例
親と自宅を共有していたところ、親が死亡、住宅ローンは保険で弁済されたものの、他に高額の債務があったというケースです。
このようなケースで自宅の共有持分を取得し、そのまま住み続けたいという場合には、次の方法があります。
1 単純承認でそのまま相続
2 相続人全員で限定承認
3 全相続人が相続放棄、相続財産管理人を選任し、管理人から買い取る
1の場合、借金も全て支払わないといけないので、亡くなった方の財産より債務額の方が多いときは、損をすることになります。
2の限定承認であれば、財産の範囲内でだけ弁済すれば良いことになります。また、相続人であれば、先買権があり、競売の前に優先的に買いとる権利があります。
買いとる金額については、家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価によります。
鑑定人の評価があまりにもおかしいという場合には、おかしいという資料をつけて、再度、鑑定人の選任申立ができるとはされています。
鑑定人の費用は、相続財産からの支払ではなく、申立をする相続人の自己負担とされます。
3の場合、相続放棄ですので、プラスの財産も、マイナスの債務も相続しません。本来であれば、全相続人が相続放棄をすると、相続財産管理人が選ばれ、管理人が、相続財産を換価します。
この場合、限定承認のときの、先買権のように、法的に優先して買いとる権利はありませんが、現実には、共有持分だけでは売却しにくいです。
ですので、通常、相続財産管理人は、そのような共有持分については、まず共有者に買い取ってもらえないか、それが無理であれば、親族など関係者に買い取ってもらえないかを打診します。法的な優先権はないですが、管理人がそのような動きに出ると見込んで、そこで交渉し、買い取るという方法です。
相続財産管理人からの買い取りの場合、相続財産管理人は、共有持分の売却について、家庭裁判所の許可が必要になります。この際には、限定承認のような鑑定まではされないことが多いです。
リスクとして、相続財産管理人との交渉が決裂するなどということもあり得ますが、最悪の場合でも、共有物分割訴訟での和解を視野に入れて交渉すれば、決裂する可能性は低いことが多いです。
そこで、相続人の資金にもよりますが、限定承認の鑑定評価よりも、相続財産管理人からの買取金額の方が低く抑えられる可能性が高いときには、限定承認ではなく、あえて3の方法を選ぶこともあります。
今回のケースでも、相続人間の足並みが揃えられること、一定額の買い取り金額を準備できる見通しであったこと、事前の査定価格や担保設定状況を見たとき、相続財産管理人を相手に交渉した方が有利になる可能性が高いと見込み、3を選びました。
その結果、当初の見込み額よりも低額での買い取りに成功しました。
限定承認による鑑定見込額よりは確実に低い金額での買取ができ、依頼者にも大きな経済的メリットがありました。
このような交渉は、諸事情によって成功率が変わってきますので、事前にある程度、準備が必要となります。
今回のケースでも、相続放棄までの3か月では間に合わなかったため、3か月の期間を延長してもらったうえで、相続放棄を選んでいます。
共有者の死亡により、相続をどうするかお悩みの方は、一度、このような選択を考えてみると良いかもしれません。